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トランプ政権発足から2年、守った公約、守っていない公約

ニューズウィーク日本版 2019年1月21日 17時30分

<自分は「有言実行の男」とアピールするトランプだが、絵に描いた餅に終わった公約もある>

ドナルド・トランプ米大統領は昨年の中間選挙用の遊説で、「公約はなされ、公約は守られた」というスローガンを唱えていた。1月20日で大統領就任から丸2年、トランプはたしかに公約の一部は守ったが、実現できなかったものも少なくない。

つい先週もトランプは、自分は約束した通りに事を運んでいると主張した。

「政治家たちは過去何十年も、国境を守るとか、貿易協定をやり直すとか、海外に出て行った工場を呼び戻すとか、中国に強硬姿勢を取るとか、大使館をエルサレムに移すとか、NATOに公平な負担を求めるとか、たくさんの公約をしてきたが、結局は1つとして実行されなかった(もしくはもっとひどくなった)」とトランプはツイッターで述べた。

そしてこう締めくくった。「私はやると誓ったことをやるべく、われらが偉大な国家の国民によって選ばれた。約束通り私はあなたがたのために戦っている!」

だがトランプが言及したのは進捗がみられる公約ばかり。以下では彼が選挙で公約した重要な政治課題の一部がどうなったか見てみよう。

国境の壁を負担ゼロで作る

2015年6月の大統領選への出馬表明演説でトランプはこう言った。「私は偉大な壁を作るだろう。私よりうまく壁を作れる人間はいない。信じて欲しい。それに私なら非常に安い費用で壁を作る。偉大な、偉大な壁をアメリカの南の国境に作り、壁の費用はメキシコに払わせるつもりだ」

しかし最近は「(メキシコが壁の建設のために)小切手を切るだろう」と言ったわけではないと修正している。ちなみにメキシコのエンリケ・ペニャ・ニエト大統領は2017年、壁の費用は払わないと明言済み。

トランプは今、壁の建設費用として57億ドルの予算を議会に要求している。民主党はこれを拒否、代わりに国境警備の予算としてはるかに低い金額を提示している。対立は長引き、アメリカ史上、最長となる政府機関の閉鎖が続いているが、壁ができる目途はまだ立たない。

<参考記事>米政府閉鎖で一カ月近く無給の連邦職員、食料配給に殺到

米中貿易戦争は休戦中だが

トランプは北米自由貿易協定(NAFTA)を「災厄」だと批判し、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)については「さらに悪くなるだろうから抜けるつもりだ」と述べた。また、貿易赤字の問題では中国に強い態度で臨むとしていた。

TPPについては公約通り、就任後数日で離脱した。NAFTAに代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の交渉を行い、11月には署名にこぎつけた(発効に必要な議会の承認はこれから)。

一方で、中国に関する公約はいまだに実現していない。現状は、貿易赤字の是正どころか互いの国の産品に追加関税をかけ合う貿易戦争の様相だ。両国は12月に90日間の「停戦」で合意、一時的に戦いは中断しているが、その先の展望はまだない。



石炭産業の救済

トランプは選挙戦で、石炭産業の雇用を取り戻すと公約した。アリゾナ州フェニックスで行った遊説では「アメリカの炭鉱労働者を職場に戻す」と述べ、その手段としてオバマ政権下で導入された地球温暖化防止のための環境規制を撤廃すると言っていた。

トランプ政権はこの2年、確かに石炭産業の再活性化を図ってきた。だが米エネルギー情報局(EIA)は昨年の石炭の消費量は前年比で4%近く減少し、1979年以来最低の水準とになるとの見通しを発表した。昨年の石炭需要はピークだった2007年と比べ44%も落ち込んでいる。

<参考記事>トランプは石炭の雇用を取り戻せない──嘘に気づき始めた労働者たち

オバマケア撤廃する

トランプは大統領選でオバマケア(医療保険制度改革)の撤廃を公約した。オバマケアはすべてのアメリカ人に医療保険への加入を義務づけ、これまで無保険だった人々も医療を受けられるようにすることを目指す施策だった。

2017年12月に成立した共和党の税制改革法案には、医療保険未加入の個人に対する罰則を2019年に撤廃することが盛り込まれた。共和党はまた、一部の補助金をなくすなどしたが、オバマケアの全面的な撤廃には至っていない。

昨年12月にテキサス州の連邦地裁が、医療保険加入の義務化は「切り離すことのできない」オバマケアの一部で、ゆえにオバマケアは違憲だとの司法判断を下した。だが最高裁判所に上訴されたことで、法律は今も手つかずのままだ。

中流向けの減税はまだ?

トランプは法人税率の引き下げとともに、勤労者階級向けの大型減税を約束した。

2017年12月に成立した共和党の税制改革法案はトランプの公約実現の1例とされた。だが、公約では法人税率をを35%から15%まで引き下げると謳っていたのに対し、実際には21%にしかならなかった。そして、この税制改革の恩恵を最も受けるのは富裕層だ。

(翻訳:村井裕美)


ジェシカ・クウォン

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