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ビットコイン復活の鍵は危機に瀕する新興市場

ニューズウィーク日本版 2019年1月30日 16時30分

<貨幣通貨が信用できず紙くず同然なら、賢明な国民はデジタル仮想通貨に乗り換える>

仮想通貨ビットコインの相場は昨年の1年間で大暴落した。誕生から約10年、真の市民権を得るのはまだまだ先の話かと、落胆した人も多いだろう。しかし目先を新興諸国、とりわけ金融危機の渦中にある諸国に転じれば、ビットコインは意外なほどに健闘している。

筆者はベネズエラやトルコ、キプロス、アルゼンチンで現地調査を行い、法定通貨が紙くず同然の社会で仮想通貨が人々の命綱となっている現実を目の当たりにしてきた。

実際、ケンブリッジ大学の研究者による推定では、仮想通貨が軒並み値を下げた昨年にも、その利用者数は倍増している。しかも、増えた利用者の大半は途上国にいるらしい。人口比で見ると、仮想通貨が最も普及している国はロシアやナイジェリア、そしてベネズエラだ。

政府の無策で経済が崩壊したベネズエラでは、年率100万%の超インフレが予測され、そもそも銀行口座を持たない人も多い。だから仮想通貨への抵抗感は少なく、今やファストフード店でも深夜営業のバーでも「ダッシュ」と呼ばれる仮想通貨が使われている。

トルコも似たような状況で、国民の約5人に1人が仮想通貨を保有している(EU域内では10人に1人に満たない)。昨夏の通貨リラの急落を受けて、デジタル世代の若者が続々と仮想通貨に乗り換えたからだ。

キプロスでも12~13年の金融危機後に仮想通貨への関心が高まった。今や同国は仮想通貨の利用で最先端を行く国の1つで、私立大学には仮想通貨の専門課程があり、学費はビットコインで納付できる。法定通貨よりもよほど信用されているからだ。こうなると国民も、進んでデジタル仮想通貨の使い方を学ぶようになる。

勝ち組のユーザー体験を

それでも一段の普及に向けては、もっと快適なユーザー体験の蓄積が必要だろう。特殊なデジタルウォレットや複雑なプライベートキーを敬遠する人は多い。この点では、先行するデジタル・キャッシュレス決済の成功例に学ぶことができよう。

中国では今や支付宝(アリペイ)と微信決済が一般的になっているが、その普及までの道のりは必ずしも平坦ではなかった。運営業者のアリババもテンセントも大勢のスタッフを小売店に派遣し、サービスの説明と消費者の教育に努めたものだ。仮想通貨業界も同様の努力をして、成功につながるユーザー体験をつくり出す必要がある。



そういう努力を重ねていけば、業者側でも消費者のニーズに関する理解が進み、仮想通貨をより使いやすくするためのツールも開発できるだろう。

例えばダッシュは昨年11月、ベネズエラで携帯電話のSNSで仮想通貨を取引できる新サービス「ダッシュ・テキスト」を開始した。結果、隣国コロンビアでもダッシュの利用者が増えた(同国に逃げ込んだ多くのベネズエラ人の影響だ)。

ビットコインにとっても、新興諸国での仮想通貨普及は追い風となるはずだ。従来、ビットコインの価格上昇はもっぱら投機的な動きによるものだったが、今度は実需に裏付けされた(つまり健全で持続可能な)価格上昇が期待できる。

ビットコインにとって、昨年は最悪の年だったかもしれない。しかし役立たずの法定通貨に幻滅した新興諸国の人々には、仮想通貨の可能性に懸ける覚悟がある。このチャンスを生かせば、今年はビットコインの復活元年になり得る。

<本誌2018年01月29日号掲載>



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チャン・ドゥー(仮想通貨のベンチャー資本家)

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