Infoseek 楽天

ベネズエラの独裁者が米国民に直訴「トランプに攻撃させないで」

ニューズウィーク日本版 2019年1月31日 16時26分

<ベネズエラに対する軍事力行使も検討しているとされるトランプ米政権に対し、マドゥロ大統領が恥も外聞も捨てアピール>

ドナルド・トランプ米大統領が中米で戦争を始めるのを止めてほしい──大統領選の不正疑惑でベネズエラが政治危機に陥るなか、2期目の就任を宣言したニコラス・マドゥロはビデオメッセージで「アメリカの国民」にそう訴えた。

1月30日にフェイスブックの自身のアカウントに投稿した動画で、マドゥロは自分を悪者扱いしているメディアを信用するな、とアメリカ人に警告。

「ベネズエラで起きているのは『政権転覆』」の試みで、その背後でクーデーターを「仕掛け、資金を出し、積極的に支援したのはドナルド・トランプ政権にほかならない」という。



昨年大統領選が行われたベネズエラでは1月10日、「勝利」したマドゥロが2期目の大統領就任式に臨んだが、経済を破綻させ、選挙で不正を行い、数々の人権抑圧を行ったとされるマドゥロ政権に国民の怒りが爆発。各地で抗議デモが頻発するなか、野党指導者のフアン・グアイド国会議長が1月23日、暫定大統領への就任を宣言した。米政府はグアイドを承認し、マドゥロ退陣を求めて圧力を強めている。これに反発したマドゥロは、ベネズエラでも、イラクやリビア、ベトナム戦争のような軍事紛争が起きるとアメリカ人に警告した。

「アメリカがわが国に侵入する気なら、彼らの想像を超える厄介なベトナムが待ち受けている。暴力を許してはならない。ベネズエラが新たなベトナムと化すのを許すな」

第2のベトナム戦争になる

アメリカは1965年、北ベトナムの共産主義勢力から南ベトナムを守るために本格的な軍事介入を開始したが、「ベトコン」(南ベトナム解放人民戦線)のゲリラ攻撃に手を焼き、1973年に撤退を決定。1975年に戦争は終結し、ベトナムは社会主義国家として統一された。冷戦時代のアメリカは、ソ連の勢力拡大を防ぐためベトナム以外にも世界各地で介入や工作を行った。中南米の右派勢力にもテコ入れし、最近では2002年にマドゥロの前任者ウゴ・チャベスを倒すため、CIAがクーデターを計画したと伝えられている。

だがトランプ政権がマドゥロを「正当性を欠いた」指導者と呼ぶのは、未曾有の経済危機に何らの手も打たず、反政府派を弾圧している疑いがあるからだ。ベネズエラでは年率百万%ともいわれるハイパーインフレが吹き荒れ、食料や医薬品も底を突き、国民は大挙して国外に逃げ出している。米政府はグアイド暫定大統領の承認に続き、ベネズエラの国営石油会社を経済制裁の対象に指定した。


大統領選に出馬もしていなかったグアイドの正当性にも疑問符がつくが?

マドゥロに言わせれば、この動きに米政府の真の狙いが透けて見える。「わが国に限らず、どこの国にも問題はある。わが国の問題はわれわれが解決する。わが国の石油資源は確認埋蔵量で世界最大だ。アメリカの石油帝国を率いる連中は、それを手に入れるため、イラクやリビアでやったのと同じことを企んでいる。だが、ベネズエラとマドゥロが大量破壊兵器を持っているという話をでっち上げて、介入の口実にするのは無理な相談だ」

一方ロシアは昨年12月、核兵器を搭載できるロシアの超音速戦略爆撃機ツポレフTu160を演習のために2機、ベネズエラに派遣している。ロシアとマドゥロ政権の結束を示すための軍事的パフォーマンスだ。ロシアはベネズエラを西側世界に位置する貴重な橋頭堡とみなし、多額の信用供与を行い、マドゥロに対する米政府の締め付けを非難してきた。



ロシアの後ろ盾で政権維持か

ベネズエラの政治危機で、国際社会は二つに分断されている。マドゥロを支持するのはボリビア、キューバ、エルサルバドル、ニカラグアなどの中南米の左派政権の国々など。世界の大国では、ロシアのほか中国、南アフリカ、トルコなどがマドゥロ陣営だ。一方、アメリカとともにグアイドを支持するのは、EUやオーストラリア、カナダ、イギリス、台湾など。

メキシコとウルグアイがマドゥロと野党との協議の仲介を申し出たほか、国連やEU、インドなども事態の沈静化を呼び掛けている。ロシアもマドゥロの代理として野党との話し合いに応じる姿勢を見せている。ただしマドゥロは大統領選のやり直しを求める「帝国主義者」の要求に応じる気はないと言明。2025年まで政権の座に居座る構えだ。


トム・オコナー

この記事の関連ニュース