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「日韓首脳は状況打開のために早期の会談を」

ニューズウィーク日本版 2019年2月1日 17時30分

<さらなる関係悪化を食い止めるために今こそシャトル外交の実現が必要だ――日韓関係に詳しい韓国人専門家が語る問題解決の糸口>

非難の応酬が続く日韓関係だが、そもそも韓国政府は対日外交をどのように捉えているのか。また問題解決の糸口はどこにあるのか。日韓請求権協定に基づく外交的な解決や、国際司法裁判所への提訴はどれくらい現実味があるのか。日韓関係に詳しい韓国の慶南大学極東問題研究所の趙眞九(チョ・ジング)助教授に、ジャーナリストの朴辰娥(パク・ジナ)が聞いた。

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――日韓関係がこじれている。現状についてどう思うか。

残念に思う。

――具体的には。

昨年5月、東京で日韓首脳会談が行われた際に、日韓がこれまで事実上中断していたシャトル外交を復活させることで合意したが一度も実現していない。日韓関係が困難な状況にあるにもかかわらず、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と安倍晋三首相が直接会って率直に議論する機会がないのは非常に残念なことだ。

――元徴用工への賠償問題とレーダー照射疑惑が問題になっている。それぞれ解決の道筋を。

徴用工問題を実務的に解決するには、(65年の)日韓請求権協定に基づき外交上の対応が必要になる。

日韓請求権協定の第3条では(協定の解釈や実施に関して)両国間に紛争が生じた際には、まず外交上のプロセスを通じた解決を図るよう規定されている。日本政府は駐韓大使の召還もちらつかせながら韓国政府に対して外交協議を要請している。ただ韓国政府は、日本からの協議要請に同意するのかしないのか、まだ公式な声明を出していない。両国の外交協議で解決に至らない場合は仲裁委員を通じた解決が規定されており、それでも解決が見られない場合は国際司法裁判所(ICJ)への提訴が議論されることになる。だが、日韓両国はまだその段階にはいない。

ただ、仮に両国が外交協議による解決に同意したとしても、双方が満足するような解決策を見いだすことは難しいと思う。

――その理由は?

どちらかの国にとって合意可能な内容が、もう一方にとって合意可能とは限らない。例えば、仲裁委員を通じた解決方法に移るとしても、日韓双方が同意できる第三国の仲裁委員を見つけること自体にかなりの困難が伴う。

――そうであれば、3条はもはや無意味な条項になる。

日韓がいま抱えている問題の性質を考えると、協定で規定された外交協議などで解決できる代物ではないため困難だと思う。

仲裁委員を含めて外交による解決が困難となればICJに行き着くことになるが、そもそも日韓両政府がその方法に合意するかさえ分からない。韓国側について言えば(昨年10月に元徴用工による個人的な賠償請求権の効力は消滅していないとの判決を出した)韓国最高裁の判断を受けて、韓国政府がどのような方針を取るのかという点に関して内政上の合意形成が必要になるが、これもまだ成されていない。

一方でレーダー照射問題については、実際に何が起きたのか知る立場にはない。韓国の国防省は私や日本の専門家にも情報を提供していない。ただ韓国ではこんな疑問が出ている。レーダー照射されたら命を守るために退避すべきはずだが、日本の哨戒機は逃げずに韓国駆逐艦の上空を周回して複数の写真を撮るなどの「余裕」があった、と。そうした疑念もあることから、日本が少し過剰に反応したのではとみられている。

技術的な真相は分からないが、この問題は両国間の相互不信に起因しているのではないかと考えており、現在の日韓関係をよく反映していると思う。



――文大統領は「日本が謙虚になるべき」と発言し、日本政府は「韓国が最初に国際法違反を犯した責任を日本に転嫁している」と応酬した。

文が「日本が謙虚になるべき」と発言したのは歴史的な観点についてだ。この発言の真意については、李洛淵(イ・ナギョン)首相がより明確に発言している。つまり、「日本は歴史に対して謙虚になるべきである一方、韓国は未来に対して謙虚になるべきである」と。

韓国政府の基本的な対日姿勢は1998年に当時の金大中(キム・デジュン)大統領が日本の国会で行った演説で述べられている。つまり成熟した未来志向の関係ということであり、これに対して当時の小渕恵三首相は日韓の歴史問題に触れた。

――両国政府による非難の応酬が高まる一方で、韓国の世論は比較的おとなしいと日本ではみられている。

最初の段階では韓国メディアも静かだったが今は違う。確かに、文の年頭会見で韓国の記者は誰も日韓関係について質問しておらず、文自身も日本人記者から質問されるまでは何も語らなかった。この状況が示しているのは、今の青瓦台(韓国政府)において日韓関係が優先順位の高いアジェンダではないということだろう。あるいは、日韓関係の問題に対して、確たる対応策がないということかもしれない。

――文政権の親北路線が対日外交に影響していると思うか?

日本は昨年の平昌冬季五輪以降、(東アジア外交において)疎外感がある、という見方ができる。例えば、かつては北朝鮮の核開発問題に対処するための日米韓調整会合(TCOG)があったが頓挫した。そして昨年来、北朝鮮が(米韓などに対して)融和姿勢に転じ協議を始めた一方で、日本は拉致問題を抱えているために北朝鮮の言動を信頼できないでいる。現在のこじれた日韓関係は、両国政府の対北朝鮮外交の違いを反映していると思う。ただ、2度目の米朝会談の進展次第では(北朝鮮情勢をめぐって)日韓の協力が必要になるときが来るだろう。歴史問題はもちろん重要だが、一方で少し新しい日韓関係を構築する必要性も生まれている。

――現状の打開策は。

繰り返しになるが、両国の首脳が会談を行い、胸襟を開いて議論することを願っている。歴史問題やレーダー照射のたぐいの問題は実務者レベルで解決できる問題ではなく、首脳レベルでのみ解決が可能だ。そのために、復活させることで合意したシャトル外交を活用して、両国間にオープンな対話ができるチャンネル構築の機会が生まれることを期待したい。文政権の国家安保戦略には「日本とは、歴史的な諸課題の解決と未来志向の関係のために実質的な協力に努める」と規定されている。この精神にのっとってほしい。

<本誌2019年01月29日号掲載>



※2019年1月29日号(1月22日発売)は「世界はこう見る:日韓不信」特集。徴用工、慰安婦、旭日旗、レーダー照射......。「互いを利してこそ日韓の国力は強まる」という元CIA諜報員の提言から、両国をよく知る在日韓国人の政治学者による分析、韓国人専門家がインタビューで語った問題解決の糸口、対立悪化に対する中国の本音まで、果てしなく争う日韓関係への「処方箋」を探る。


朴辰娥(ジャーナリスト)

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