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予想外に複雑な日中韓の三角関係──韓国は日本より中国に傾く

ニューズウィーク日本版 2019年2月5日 16時10分

<朝鮮半島統一を望む韓国の焦りを習近平が巧みに利用できるとは限らない>

アジア太平洋地域には、地政学的に微妙なバランスを保つ三角関係がいくつかある。例えば、日米中の三角関係。米中ロの三角関係、米中印の三角関係もある。

そこに近年、新たな三角関係が加わった。日中韓だ。その背景には、中国の台頭と地域経済の統一、核を利用した北朝鮮の瀬戸際外交、ドナルド・トランプ米大統領のギャンブル的な外交など複数の要因がある。

従軍慰安婦問題や徴用工問題をめぐる最近の日韓の対立悪化は、中国の目には、韓国を自らの影響下にたぐり寄せるチャンスと映っているだろう。もちろん中韓の間にも、対立のタネはある。その最大のものは南北朝鮮の統一だ。中国はこれに断固反対している。

朝鮮半島が統一され民主化されれば、中国は北朝鮮という戦略的緩衝地帯を失うことになる。韓国がアメリカと軍事同盟を結んでいることも、中国にとっては厄介な問題だ。韓国が米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)を配備して、中国から手厳しい経済報復を受けたのは、さほど昔の話ではない。

だが現時点で、日韓の亀裂拡大は、中国にとっての好機だ。うまく立ち回れば、習近平(シー・チンピン)国家主席は韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して一段と大きな影響力を持つようになるかもしれない。そして、それは必ずしも日本の安倍晋三首相にとって不利にはならないかもしれない。

アメリカとの関係悪化を受け、習は最近、安倍に急接近しており、19年中には訪日も計画している。それだけに、たとえ朝鮮半島における中国の影響力を強化するとしても、これまで進めてきた日本との関係修復を無にしないよう十分注意を払うだろう。このため習は、2つの戦略を同時に進めている。日本に対しては、引き続き「仲直りモード」を維持すること。韓国に対しては、なんとか半島統一を実現したい文の焦りを利用することだ。

トランプのギャンブル的試みを別にすれば、国際社会は今も、北朝鮮に対して厳しい態度を維持している。北朝鮮と積極的に関与し続けているのは、韓国と中国だけだ。18年3月以降、文は3回、習は4回、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と会談している。習の狙いは、北朝鮮を中国の影響下につなぎ留めておくことだが、文はそれを南北朝鮮の接近を暗に容認している証拠と見なし、歓迎しているに違いない。

中国にとって日本は、依然としてアジアにおける戦略的ライバルだが、韓国は中国の準同盟国か、少なくとも中国の中立的パートナーにできるかもしれない。安全保障の面でも、日本の立場はずっとアメリカに近く、中国の軍事増強を危険視している。これに対して韓国は、中国を軍事的脅威と見なす傾向が小さく、反米感情も強い。



米中の地政学的対立が悪化するなか、日本をアメリカから引き離すのは不可能だろう。これに対して韓国は、経済的に中国市場に大きく依存していることに加えて、北朝鮮との統一を図る上でも中国の支持が欠かせない。このため韓国は日本よりも、中国の意向に屈する可能性がはるかに高い。

日中韓の三角関係で最も重要なのは、3カ国の中で最も弱いプレーヤーである韓国が、残りの2カ国のうち、より強いプレーヤーとの関係を強化しなければならないことだ。そして歴史的な関係と、朝鮮半島統一に中国が事実上の「拒否権」を持っている事実を考えると、韓国は日本よりも中国に傾く可能性が極めて高い。

とはいえ、中国にとって韓国と恒久的な戦略的友好関係を構築・維持するのは容易ではないだろう。韓国も北朝鮮も民族意識が強く、朝鮮半島で中国が優位に立つことを許さない。それどころか、実のところ北朝鮮は、おそらく東アジアで最も反中意識の強い国の1つだ。また、中国の立場が過度に優位になれば、アメリカが介入して三角関係のバランスを変えようとする可能性も十分ある

それだけに、現時点では日中韓の三角関係を取り巻く環境は、中国に有利に働いているが、それがいつまで続くかは誰にも分からない。

<本誌2019年01月29日号掲載>



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ミンシン・ペイ(クレアモント・マッケンナ大学教授、本誌コラムニスト)

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