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トランプの一般教書演説、最大の注目点は? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年2月5日 15時0分

<恒例の「The state of the union is strong.(国家の団結は強固だ)」の決めゼリフを、トランプは言い切るのか、それとも否定するのか......>

アメリカ東部時間の2月5日(火)の晩、トランプ大統領は米議会下院議場で「一般教書演説」を行います。この演説、本来は1月29日に行われる予定でした。ですが、大統領と議会が「国境の壁」建設費用50億ドル(約5500億円)の予算をめぐって正面衝突して予算が成立せず、「政府閉鎖」という事態になったことから、演説は宙に浮いた格好になっていました。

この間、発生していたのは次のような事態です。政府が閉鎖されたために、政府職員に給料が出ないのですが、そのために資金繰りに困った職員の多くは、アルバイトで日銭を稼ぐために病欠を取り始めたのでした。

閉鎖期間が長期化する中では、国境警備、国税庁、航空管制、空港保安検査などで大きな影響が出ました。ホワイトハウスの厨房要員がいないので、大統領がゲストに対してマックのバーガーを振る舞ったという珍妙なエピソードもあるぐらいです。

とにかくこの一般教書演説というのは、全米の主要チャンネルは全部生放送しますし、目立ちたがりの大統領としては「絶対にやりたい」という意向を示していました。ところが、民主党のペロシ下院議長は「議場の警備要員も欠勤気味なので不可能」と通告。演説をやりたい大統領に揺さぶりをかけたのです。

結果的に、予算に関しては3週間の暫定予算を組むことで大統領と議会の間では合意ができ、「政府閉鎖」はとりあえず解除されました。その暫定合意ですが、国境の「壁」建設費はゼロ査定となっており、大統領は議会に屈服した格好です。

その下院本会議議場に乗り込み、政敵であるペロシ下院議長の議事進行によって「一般教書演説」をやるというわけですから、トランプとしてはここで、何とか「トランプ節」を高らかに語って、全国の視聴者に「さすが」と言わせたいのでしょう。

では、大統領は一体何を言うつもりなのでしょう?

一つ、周辺から漏れて来ているのは「国境の壁」に関して爆弾宣言をするという説です。つまり大統領は「非常事態宣言」を行なって、大統領権限で巨額な予算を一方的に決めて「壁の建設」に突き進むという説です。

ですが、この方法には無理があると言われています。一つは、そもそも非常事態があるのかという問題です。大統領は「不法移民が入り続けているので、国内に非常事態がある」という主張をしていますが、議会や世論の多くは「国境の南側で、暴力や貧困などの非常事態があるので、難民申請に来る人がいる」という認識をしています。ですから、大統領が一方的に「非常事態」だとしても、賛成するのはコアの支持者だけになる可能性があるのです。

もう一つは、その財源が「災害対策費」になる点です。そのカネを勝手に使ってしまい、その後で、ハリケーンや豪雨災害が起きて「対策費が足りない」ということになったら、国民は激怒するでしょう。



そんなわけで、「一方的に非常事態宣言をして壁を建設する」のは、ほぼ不可能と言われています。

では、大統領には何ができるのでしょうか?

この「一般教書演説」には一つの「お約束」があります。

それは演説の中で、「ステート・オブ・ユニオン(合衆国が一致団結している状態)」は「ストロング」だという部分です。大統領としては、これを言って大見得を切り、議場は全員が総立ちになって拍手をするというのが「お決まり」であるわけです。

この「ステート・オブ・ユニオン」を取って、この演説のことは「ステート・オブ・ユニオン・アドレス(演説)」と名付けられているぐらいです。

では、現時点の「ステート(状態)」はどうでしょう?

団結どころではないわけです。大統領は「壁」に固執して世論と議会の多数と対立している、一方で議会には妥協の姿勢はゼロ。これでは、「ユニオン(団結)」などあり得ません。

そんな中で、大統領として「国の団結は最高の状態だ」と宣言しても場内が怒号の嵐となるのは目に見えています。それでも、この大統領は居直ったような姿勢を取るかもしれません。

反対の可能性もあります。大統領としては、この際、「ステート・オブ・ユニオン」など「ない」と宣言するというシナリオです。その上でその責任は「フェイクニュース」のメディアと、「ラジカライズ(過激化)」した民主党にあると、思い切り喧嘩を売る、そんな可能性もゼロではありません。

そうなれば場内は一層の怒号の嵐になり、米国政治史上の最大の汚点になる、そんな解説もされるかもしれません。その結果、現在41%の支持率が35%とかそれ以下の超危険水域になるかもしれません。そうなれば、共和党は次回の議会選挙での「大統領との共倒れ」を嫌って、ペンス副大統領の昇任か、あるいは予備選で大統領を負かせて別候補とスイッチするなどの動きを始めるかもしれません。

本当は、大統領としては「一方的な壁建設政策」を少し引っ込めて、議会との和解を訴えるべきです。そうすれば、支持率ダウンには歯止めがかかり、議会との対話も始まるかもしれません。ですが、その可能性は低いと思われます。

いずれにしても、トランプという人は、何をしでかすか分かりません。「国の団結などない」という爆弾発言をする可能性もあれば、堂々と「国の団結は最高」などと居直る可能性もあります。今回の演説では、ここが最大の注目点になると思います。

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