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核軍縮の枠組みをぶち壊すアメリカ

ニューズウィーク日本版 2019年2月5日 16時34分

<米ロ両国が冷戦終結を象徴する歴史的な核軍縮条約からの離脱を表明。もう一つの核軍縮条約、新STARTにも影響か>

ドナルド・トランプ米政権が冷戦時代に米ロ間で締結された中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を発表したことを受け、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はアメリカが「軍縮の枠組みを丸ごと」破壊しようとしていると警告した。

ロシアの国営タス通信が2月4日に報じたところによれば、ラブロフは「残念だがアメリカは軍縮の枠組みを丸ごと破壊する方向に進むことを決めた。新たな時代が始まった」と語った。「アメリカの専門家たちは既に、次は2021年に期限が切れる新戦略兵器削減条約(新START)だと言っている」

マイク・ポンペオ米国務長官は2月1日、アメリカは180日以内にINF全廃条約から離脱すると発表。ロシア側の条約違反を改めて非難した。1987年に当時のロナルド・レーガン米大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長の間で締結された歴史的な核合意であるINF全廃条約は、射程距離が500~1500kmの全ての地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの開発と配備を禁じている。

トランプは2018年10月、「ロシアは長年、条約違反をしてきた」と発言。ロシア側が違反を是正しなければアメリカはINF全廃条約から離脱するとの考えを初めて表明した。「我々は合意にとどまり、合意を尊重してきた。残念ながらロシアは、合意を尊重してこなかった」

「核紛争のリスクを増大させている」

逆にロシア側は、アメリカが条約違反をしていると非難している。2月2日、トランプ政権によるINF全廃条約離脱の発表を受けて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアもINFから離脱すると表明した。

新START条約は2010年、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領の時代に締結された第一次戦略兵器削減条約(START1)をアップデートする形で、バラク・オバマ前大統領の下で締結された。米ロ間で合意され2011年に発効した新START条約は、米ロが共に戦略核ミサイルの配備数を削減することを目指し、また新たな査察・検証体制も設けた。トランプが新STARTからも離脱する考えなのか、それとも2020年の大統領選で再選された場合に(2021年の)条約の期限切れを待つつもりなのかは不透明だ。

ラブロフは2月4日、「新たな軍拡競争を始めるつもりはない。プーチン大統領はその考えを明確にしている」と言明。だがロシアは「アメリカのINF全廃条約離脱により台頭する脅威に対しては、断固として軍事的および技術的に対応していく」つもりだとも語った。またラブロフは、米政府が「核兵器使用の敷居を劇的に引き下げ」、「核紛争のリスク」を増大させていると懸念を表明した。



プーチン大統領の報道官であるドミトリー・ペスコフはその前の週、米政府は条約の交渉に関心がないようだと指摘していた。タス通信によればペスコフは、「アメリカ側はいかなる主張にも耳を傾けようとせず、いかなる実のある交渉も行う気がない。このことは、米政府による条約破棄の決断がずっと前に行われていたことを示唆している」と記者団に語った。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、INF全廃条約から離脱を発表する一方で、アメリカは1991年以来はじめて長距離核兵器の製造に着手している。ほかの複数の核保有国からは、INF全廃条約からの離脱決定の裏には、アメリカが軍備増強を正当化する狙いがあるという声も上がっている。

こうしたなかイランとロシアのメディアは、ロシア政府はトランプ政権によるINF全廃条約からの離脱に対抗して、中国、北朝鮮、イラン、パキスタンとインドとの間で核に関する新たな協定の締結を目指すつもりだと報じた。

イランの国営イスラム共和国通信の報道によれば、ロシア下院国防委員会のウラジーミル・シャマノフ委員長はこう語った。「アメリカがそういうつもりなら、ロシアは今後、ほかの複数の国と核ミサイルの拡散防止メカニズムを築くことを目指していく」

(翻訳:森美歩)


ジェイソン・レモン

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