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中距離核(INF)全廃条約破棄、トランプの本当の狙いは中国の抑止か

ニューズウィーク日本版 2019年2月9日 16時40分

<核軍拡レースを懸念する声が上がる一方で中国の中距離弾道ミサイル増強も見逃せない>

ポンペオ米国務長官は2月1日、中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を表明した。この決定は増大するロシアと中国の脅威への対応能力を強化する効果はあるが、他の軍備管理条約にも悪影響を及ぼす危険性があると、アナリストは言う。

ロシアの同条約違反については、専門家と欧米の政府当局者の見方はおおむね一致する。だが、条約破棄の是非については意見が割れている。NATOはトランプ政権の決定を支持したが、専門家の一部には新たな核軍拡レースにつながるのではないかと懸念する声もある。

「この種のミサイルへの制限がない世界はどうなるのか」と、軍備管理不拡散センターのアレクサンドラ・ベルは言う。「ロシアの中距離核ミサイル製造能力への制限がゼロになれば、世界は今より安全になるのか。答えはノーだ」

ベルらの軍備管理支持派は、トランプ政権が他の条約、特に新戦略兵器削減条約(新START)の破棄にまで踏み込む事態を危惧している。11年に発効された同条約は、米ロの核弾頭とその運搬手段に数量制限を課すものだが、双方が延長に合意しない限り21年初めに失効する。

トランプ政権高官を含む共和党の専門家の一部は、同条約を不公平だと批判してきた。ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はかつて、「ひどく間違っている」と主張した。トランプ大統領も17年2月、「悪い取引」と呼んだ。

17年1月まで軍備管理・国際安全保障担当の国務次官代行を務めたトーマス・カントリーマンはこう語る。「ボルトンはずっと新STARTに敵意を持っていた。条約を延長しないための口実なら、どんなものでも歓迎するだろう」

「空母キラー」に対抗?

だが他の専門家や米政府当局者は、ロシアが無視する条約に固執する意味はないと主張する。「軍拡レースが始まっているとすれば、ロシアは既に走り出しているが、私たちはまだシューズのひもを結んでいる段階だ」と、ワシントンのシンクタンク大西洋評議会の核兵器問題専門家マシュー・クレイニグは言う。

ある政府高官も1日の記者との電話説明会でこう述べた。「もし軍拡レースが再開したのなら、始めたのはロシア側だ」

一部の専門家は、INF条約破棄は通常兵器の増強を続ける中国を抑えるのに役立つ可能性があると言う。もともと同条約に加わっていない中国は、膨大な数の通常兵器を製造・配備してきた。「空母キラー」と呼ばれる中距離弾道ミサイル東風21はそのいい例だ。



アメリカが同条約の制約から解放されれば、中国の中距離ミサイル増強に対抗できるようになる。有力な選択肢の1つは、移動式または地上発射式の弾道ミサイルを太平洋の島に配備することだと、専門家は指摘する。

かつて国務省で軍備管理を担当していたカーネギー国際平和財団のプラナイ・バディは、配備を受け入れるアジアの同盟国は容易に見つからないだろうと語る。「中国の内陸部を攻撃可能なアメリカのミサイルを受け入れれば、この地域全体がひどく不安定化しかねない」

それに米軍は既にミサイルを発射可能な航空機や艦船、潜水艦をこの地域に配備している。

それでも大西洋評議会のクレイニグは言う。「大歓迎で『うちに来てくれ』と言う同盟国はないが、アジアの軍事戦略上、重要だと思うのであれば、ミサイル配備のために同盟国と協力する可能性はある」

From Foreign Policy Magazine



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ロビー・グレイマー、ララ・セリグマン

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