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噂のケトダイエット、本当に体にいいの?

ニューズウィーク日本版 2019年2月15日 17時40分

<体を「ハイパー脂肪燃焼モード」に切り替えてどんどん痩せる効率的な減量法だが、肝臓、腎臓に過大な負担がかかるリスクも>

カロリー制限なし。空腹に耐えることなく短期間で体重を落とせる――そんなダイエットが話題を呼んでいる。ケトジェニックダイエット、略してケトダイエットだ(この言葉はアメリカで昨年、グーグル検索語ダイエット部門のトップになった)。

脂っこい食べ物も我慢する必要はないが、「ただし」が付く。パン、ポテト、果物まで、糖質(炭水化物から食物繊維を除いたもの)を極端に制限しなければならない。一般的に糖質は1日の摂取カロリーの5~10%に抑えるよう推奨されている。

ケトダイエットの優れた減量効果を示す研究は増え続けている。マサチューセッツ州のフレーミンガム州立大学チームが昨年発表した論文によると、低糖質・高脂質の食事を20週間続けた過体重の成人は、高糖質・低脂質の食事を続けた対照群と比べ、1日の消費カロリーが約250キロカロリーも多かった。

女優のハル・ベリーやグウィネス・パルトロウなどセレブにも人気のケトダイエット。ここ数年、レシピや献立が盛んに紹介されるようになり、糖質ゼロのスナックも大いに売れている。

だが歴史は意外に古い。もともとは1920年代にてんかんの治療のために開発された食事療法で、特に子供の患者に有効とされたが、新しい抗てんかん薬の登場に伴って下火になった。

その後94年、NBCのニュース番組で重いてんかんに苦しむ男の子チャーリーの話が取り上げられ、これがきっかけで再び注目を浴びた。両親が必死の思いでケトダイエットを試みたところ、1カ月足らずで発作が収まり、薬も要らなくなったという。

チャーリーの父親は映画監督のジム・エイブラハムズで、息子の「奇跡的な治癒」を題材に97年にメリル・ストリープ主演のテレビ映画『誤診』を制作。これでブームに火が付き、偏頭痛や睡眠障害から自閉症やアルツハイマー病まで、あらゆる症状にケトダイエットが試みられるようになった。

その後、やはり糖質を制限するアトキンス式ダイエットが話題を呼び、ケトダイエットも減量法として推奨され始めた。

野菜・果物の糖質もだめ

私たちの体は通常、炭水化物や他の糖類を分解して作られるグルコース(ブドウ糖)を主なエネルギー源にしている。しかし糖質が極端に不足すると、体は脂肪を分解して「ケトン体」という物質を作り、グルコースの代わりにエネルギー源にするようになる。エネルギー源がグルコースからケトン体に切り替わった状態を「ケトーシス」と呼ぶ。

ケトーシス状態では体はいわば「ハイパー脂肪燃焼モード」になり、脂肪をどんどん燃やす。皮下や内臓に蓄積された脂肪も燃やされ、スリムになれる。





ケトーシス状態になったかどうかは血中のケトン体濃度を調べれば分かる。吐く息にツンと鼻をつく特有の臭いがしたり、口が渇くこともサインになる。

この状態になるには、糖質の摂取量を1日50グラムまでに制限しなければならない。厳格な実践者は1日20グラム(バナナ1本分)しか取らない。代わりにオリーブ油やナッツなど高脂質食品をたっぷり食べる。牛肉や鶏肉もたくさん食べていいが、タンパク質は1日の摂取カロリーの20%までに抑える必要がある。

野菜・果物はでんぷんや糖類をたっぷり含んでいるため、糖度の低いベリー類や葉物などを選んで少量取るようにする。

糖質を極端に制限しても工夫次第でグルメな料理を楽しめるが、許可された糖質の摂取量の大半は野菜から取ることになる。

ケトダイエットは低カロリー・低脂質のダイエットと比べて短期間で大きな減量効果があると、いくつもの論文で報告されている。理由として考えられるのは、脂っこいものを食べるので満腹感が長く続くことや、ケトーシス状態になると空腹ホルモンの分泌が抑えられることなどだ。

ただし長く続けるのは難しく、1年もすると低脂質ダイエットと減量効果はほとんど変わらなくなるとも指摘されている。

まずは医師に相談しよう

「どんなダイエットにもリバウンドは付き物」と、栄養学者のアリッサ・ラムジーは言う。「しかも、3人に2人は減量前より体重が増えてしまう」

治療目的で採り入れる場合は別として、一般の人でもケトダイエットは体にいいのだろうか。

この点については研究者の見解が分かれている。指摘されている問題点は、飽和脂肪酸の多量摂取でコレステロール値が上がりかねないことや、果物・野菜の摂取量が減るためビタミンや食物繊維が不足しがちなことなどだ。

ハーバード大学医学大学院のニュースレター「ハーバード・ヘルス・レター」は、ケトダイエットでは大量の脂質とタンパク質を代謝するため肝臓と腎臓に過大な負担がかかる危険性があると警告している。

糖質制限を始めてからケトーシス状態になるには数日かかり、その間に人によっては下痢、吐き気など「ケト風邪」と呼ばれる症状が出る。長期的には便秘や思考の混乱、イライラなどの症状が表れることがある。

糖質制限に限らず何らかの形で食事を制限すれば「食べ物のことを異常に気にし、食欲をコントロールできなくなるなど食習慣が乱れかねない」と、ラムジーは指摘する。

こうしたリスクを理解した上で、ケトダイエットを試してみようと思うなら、まずはかかりつけ医に相談してみよう。

<本誌2019年02月05日号掲載>



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イブ・ワトリング

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