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ルービックキューブは今こそ旬

ニューズウィーク日本版 2019年2月20日 18時40分

<1980年代に世界的ブームを巻き起こした立体パズル――デジタル時代を迎えて人気が復活している理由とは?>

ああ、わが青春のルービックキューブ! 一定の年齢層には、そんな感慨さえもたらすルービックキューブだが、デジタル機器が全盛の今はアンティークめいたおもちゃにさえ思える。

ハンガリーの建築家エルノー・ルービックが1974年に原型を作製したこのパズルは、80年代に大旋風を巻き起こした。そのルービックキューブが今、かつてないほど売れており、2017年の売り上げは2億5000万ドルと過去最高に達した。

理由は、科学教育に役立つツールとして関心が高まっていること。08年に始まったプログラム「君もルービックキューブが解ける」では、全米の学校にルービックキューブとその解き方の説明書を配布した。

このプログラムでは、教育関係者が「21世紀の学習スキル」と呼ぶ問題解決能力や独創性、論理的思考などに重点を置いた。これが、発売から40年になるルービックキューブに新たな生命を吹き込んだ。

初めは「マジックキューブ」という名前だったこのパズルは、開発者のルービックでも解くのに1カ月を要した(現在の世界記録は3.47秒)。「君も~」のキットには解き方の説明書きも入っているが、それを見ても難しいことに変わりはない。ルービックキューブはそれぞれの面に6色の正方形が9つずつあり、各面を同じ色にそろえるのがゴールだ。

解くためには6段階の手順があり、中には実に複雑な手順もある。説明書きには「上の面に黄色がない状態で、上面のエッジキューブの前面の色が側面のセンターキューブの色と同じになるまで回転させて縦の列を完成させる」というように、めまいを起こしそうな記述もある。

パズルは人を結び付ける

しかし解き方が複雑なことは、理系の教育ツールとして魅力的に映った。ルービックキューブを使うことで、脳をアルゴリズム的思考(コンピュータープログラマーが実行可能な指示を作成する際の思考)に慣れさせていくことができるという。

ワシントン州ケントの教師ティナ・クリステは13年に、教育ツールとしてのルービックキューブの可能性を実感した。授業でこのパズルを解かせたら、2年生のときから言葉を発していなかった6年生の児童が最初に成功したのだ。級友たちからものすごい拍手が起こると、彼は長年の沈黙を破って大きな声ではっきりと「ありがとう」と言った。その後はささやくような小声で、他の教師や児童がパズルを解くのを手伝い始めた。

「君も~」では、このパズルを解くことが全体的な自信の向上にもつながるとしているが、まさにそれを裏付けるエピソードだ。「パズルは人とつながりを持つ。人が作ったものだからだ」と、ルービックは言う。



ひたすらパズルを解くのは退屈だという人向けには、「モザイク」セットがある。一面だけを解いて所定の模様を作ったキューブを並べ、例えばエイブラハム・リンカーン元米大統領の顔の絵にする。このセットには、600種のデザインを作成するためのプログラムが組み込まれている。

ルービックは74歳になった。彼がルービックキューブを作った当初の目的は、頭の体操になるパズルを作り、さまざまな問題は克服可能だと証明するのに役立てることだった。ルービックキューブの未来は、まさにこの意図を反映している。

このパズルの究極の教訓は、失敗は成功よりもいい教師だということだ。「ルービックキューブの過去は、未来への可能性を証明するものでもある」と、ルービックは言う。「私は老いていくが、ルービックキューブは若いままだ」

<本誌2019年02月19日号掲載>



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モ・モズチ

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