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今だから振り返る、金正恩の残虐な犯罪の数々

ニューズウィーク日本版 2019年2月27日 18時0分

<トランプが金との「個人的に良好な関係」をアピールするせいで、米朝首脳会談のテーブルから抜け落ちてしまった北朝鮮の深刻な人権侵害の数々>

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は2月27日、ベトナムの首都ハノイで2回目の首脳会談を行う。だが人権団体は、金正恩政権による残忍な拷問や処刑にもっと目を向けるべきだと訴えている。

トランプは、北朝鮮に非核化を進めさせるうえで、金と個人的に良好な関係にあることがテコになるとアピールしてきた。

だが、人権侵害で知られる独裁者の金とトランプが個人的に親しいというのはおかしい。北朝鮮で日常的に行われている政治犯の処刑や飢餓など人権に関する議論が、交渉のテーブルから置き去りにされているからだ。

「ドナルド・トランプ大統領が人権に関知しないことは衝撃的だが、もっとひどいのは、金は北朝鮮住民にとって良い指導者だと持ち上げたことだ」と、国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチでアジアを担当するフィル・ロバートソンは本誌に語った。「人口を減らしてくれるから疫病は良い、と言うようなものだ」

ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、北朝鮮は国家に対する反逆者として10万人を山間部などの隔絶された場所にある政治犯収容所送りにしている。収容者は強制労働を課せられ、無残な死を遂げる。「そうした強制労働に加え、女性は北朝鮮関係者から組織的な性的虐待やレイプを受け、住民は海外の情報から完全に遮断されている。北朝鮮が世界最悪の人権侵害国家と呼ばれるのも当然だ」

公開処刑

金正恩が父の故・金正日総書記の後継者となった2010年以降、少なくとも421人の政権関係者が粛清されたと、脱北者による非政府組織「北朝鮮戦略情報センター」の報告書にある。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が取り上げたその報告書には、金政権が過去に用いた残忍な公開処刑の手口が詳しく載っている。方法は全部で9つ。その中には、政治犯を生きたまま動物のエサにする、高射砲の的にする、火炎放射器で焼却する、といった手口もある。

北朝鮮戦略情報センターの代表を務める脱北者の姜哲煥(カン・チョルファン)は米CNNに対し、金の側近2人が見せしめとして処刑された状況を語った。金の叔父で、2013年に失脚した張成沢・元国防委員会副委員長の側近2人は、地上から航空機を撃つための高射砲8門を並べて撃ち殺されたという。姜が目撃者から聞いた話によれば、処刑に立ち会わされた張は2人の血を浴びながら恐怖で気絶したという。



北朝鮮の人民保安部副部長だった呉祥韓(オ・サンホン)が火炎放射器を使って処刑されたとされる報告についても姜は語った。「金正恩は個人的に彼を毛嫌いしていたため、あえて火炎放射器を使った処刑を命じた」。遺体は戦車に轢かれ、跡形もなくなったという。

2015年5月にはロイター通信が、北朝鮮の人民武力相の座にあった玄永哲が高射砲で処刑されたと報じた。韓国国家情報院(NIS)によれば、玄は金正恩が出席した行事の最中に居眠りをしたことによる反逆罪で、数百人の目の前で高射砲の射程内に立たされ、処刑された。

強制収容所

北朝鮮の強制収容所には10万人以上が衰弱した状態で収容されている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2017~2018年の北朝鮮に関する報告書で、北朝鮮にある4つの政治犯収容所すべてで「おぞましい」犯罪が行われていると指摘した。

2017年には、米ワシントンDCを拠点とする非政府組織「北朝鮮人権委員会」が、北朝鮮の再教育施設を含む大規模な強制収容所のネットワークをとらえたとする衛星画像を公開した。北朝鮮で秘密警察の役割を担う国家保衛省が運営するそれらの強制収容所は北朝鮮全域に広がり、郊外や山間部に大規模な建物があるのが分かる。

米紙ワシントン・ポストはその衛星写真を取り上げ、収容者たちが餓死寸前で過酷な労働を強いられていると報じた。彼らは言論や思想を理由に不当逮捕された「良心の囚人」だ。鉱山採石などの重労働を課す収容所もあれば、有害な化学物質を扱う革工場で働かせる収容所もあったという。

「収容所の衛生状態はひどく、食料も足りない。家族に食料を差し入れてもらえない収容者は、栄養失調が原因の病気で死ぬ確率が高い」と、北朝鮮人権委員会の報告書の中でデービッド・ホークは述べた。

(翻訳:河原里香)



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カラム・パトン

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