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米朝会談決裂の下手人は「壊し屋」ボルトンか

ニューズウィーク日本版 2019年3月1日 15時30分

<ハノイ会談の2日目、国際合意への嫌悪を隠そうともせず、イランや北朝鮮への攻撃も排除しない強硬派がテーブルに着いた......>

ハノイで開催された米朝会談が最終的に合意に至らなかったのは、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)の影響が大きい――と複数の外交専門家が指摘している。

過去にも国際間の合意を壊してきた経歴を持つボルトンは、ドナルド・トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党委員長が会食した27日夜の夕食会には出席しなかった。またそこには、昨年6月に歴史的なシンガポールでの第1回米朝会談の実現に向けて、北朝鮮と広範囲にわたる前例のない交渉を担当した、スティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表の姿もなかった。

しかし翌日28日の両首脳の交渉の席に、マイク・ポンペオ国務長官と並んでボルトンがテーブルに着き、ビーガンがテーブルの後ろに着席したのを見て、外交上の成果を期待していた専門家たちは不安を募らせた。

女性による反戦平和団体「DMZ(軍事境界線)を超える女性たち」の創設者のクリスティン・アンは、「ボルトンがテーブルに着き、会談の準備を進めてきたビーガンが後ろに座ったのを見て、雲行きが怪しいと感じた」と、話している。

イラン核合意からの離脱も主導

金正恩が直ちに核兵器開発プログラムを放棄すると考えていた人はほとんどいなかったが、米朝が終戦宣言し、北朝鮮の具体的な非核化のステップと引き換えにアメリカが制裁の一部を解除することはありえると、専門家は見ていた。

軍備管理・国際安全保障問題担当の国務次官や国連代表を歴任したボルトンは、国際的合意への嫌悪を隠そうともせず、イランや北朝鮮攻撃も排除しない強硬派。ほとんど常に外交よりも軍事行動を支持してきた。

イラク戦争を支持した張本人でもある。イラクが大量破壊兵器を製造し国際テロ組織「アルカイダ」系の武装勢力を匿っているという疑惑が誤りだったと判明しても、戦闘継続を主張した。トランプ政権で大統領補佐官に就任して以降は、冷戦下の米ソ間で締結された中距離核戦力全廃条約(INF)の破棄や、イラン核合意からの離脱を促進した。

「ボルトンは、自分が信用できない物を破壊しようとしてきた過去を持つ人物。今回の会談では、まさに恐れていたことが現実になった」と、オバマ政権で国務省の軍縮プログラムに携わったことがあるNGO代表のボニー・ジェンキンスは言う。



ボルトンがどのようにして交渉を決裂させたか、その詳細はまだはっきりとしない。しかし、韓国統一部元長官の丁世絃(チョン・セヒョン)は、韓国CBSラジオの取材に対して、会談2日目の28日朝の時点では「ほぼ100%楽観的」だったのに、ボルトンが土壇場で北朝鮮に対し、核兵器だけでなく保有する生物・化学兵器についても報告義務を課すと言い出したために、合意に至らなかったと語っている。

終了後の会見でトランプは、北朝鮮側が「すべての制裁の解除」を求めたと語ったが、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は、北朝鮮が要求したのは「市民経済と市民生活を阻害する特定の5項目」だけだ、と説明している。

平和NGO「プラウシェアズ・ファンド」の研究フェロー、キャサリン・キローは本誌取材に対して「どちらかといえば、北朝鮮の説明を信じる」と語った。平壌からハノイまで3200キロ以上の距離を列車で3日もかけてやって来た金正恩が、非現実的な要求をするとは考えにくいと言う。一方、ボルトンは「北朝鮮と交渉はしたくない」はずだとキローは見る。「ボルトンが交渉に関与している以上、慎重に見守らなければならない」

「北朝鮮への先制攻撃」

ボルトンはトランプ政権に参加する以前の昨年2月、米ウォールストリート・ジャーナル紙に「北朝鮮への先制攻撃に関する法的検証」という意見記事を投稿した。民間シンクタンク「戦争なき勝利」のエリカ・フェインは、「bomb them(爆撃しろ)」の異名を取るボルトンが交渉テーブルに着いた以上、トランプがより強硬になったとしても不思議ではないという。

第2回米朝会談の結果に専門家たちはひどく失望しているが、一方では、あまり悲観的な見方に傾き過ぎないように忠告する。北朝鮮研究のNGO「ナショナル・コミティー・フォー・ノースコリア」のダニエル・ワーツは、「トランプと金正恩は交渉テーブルからは去ったが、両国の交渉をつなぐ橋を焼き落としてはいない」と言う。

ワーツは韓国に米朝交渉を仲介する役割を期待しつつ、「米朝両国にとってもこの交渉を崩壊させない方が有益だ。今後数週間~数カ月の焦点は、米朝両国が過去8カ月間維持してきた均衡を引き続き維持できるか、そして今後の交渉で米朝間の溝を埋めて非核化を進展させることができるかだ」と語った。




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トム・オコナー

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