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往年のビデオゲームは保存すべき文化遺産

ニューズウィーク日本版 2019年3月2日 17時0分

<文学や映画にも大きな影響を与えてきたが、その保存活動に著作権が立ちはだかる>

多くの人が楽しんできたビデオゲームの歴史を生きたまま残すことは、相当に困難だ。昔のビデオゲームは、今や過去の遺物となったゲーム機や旧型パソコンで動かすように作られている。アップルⅡ向けの『ウルティマ』(81年)しかり、家庭用ゲーム機の先駆け、オデッセイ向けの『シューティング・ギャラリー』(73年)しかり、ジョイスティックで操作するという当時は画期的なアーケードゲームだったSNKの『怒』(86年)しかり......。

今日の巨大ゲーム産業の礎となったこれら古いゲームの保存をこれまで担ってきたのは、ゲーム史の研究家に年季の入ったゲーマー、オタク、それに海賊版業者といったさまざまな人々だ。一般的な手法は、ゲームカートリッジやアーケードゲーム機のマザーボードなどからプログラムを吸い出し、現行のパソコンで動くように書き直すというもの。こうした保存活動は時としてライセンス権や著作権、所有権に抵触してしまう。

昨年、保存活動は大きな逆風に遭った。こうしたゲームのROMデータを配布していた複数のウェブサイトを任天堂が著作権法違反で訴え、勝訴したのだ。訴えられた配布サイトは閉鎖された。

米著作権局は昨年10月、研究機関などによる合法的な保存活動におけるROM使用を認める法改正を行った。それでも、任天堂に訴えられたような営利目的のサイトは対象外だ。

だが、記録を残すことだけがゲームの保存活動ではないと、米ビデオゲーム歴史財団の創設者兼理事長を務めるフランク・シファルディは言う。古いゲームを保存することは未来の世代を教育し、新たな作品作りへの刺激を与えることにつながるというのだ。

任天堂に訴えられたのはいわば海賊版サイトだが、事実上の「過去ゲームの資料庫」として機能していたとシファルディは言う。「私が残念だと思うのは、保存の問題ではなくアクセスの問題だ。一企業が、公開された資料庫を閉鎖に追い込むことができるなどひどい話だ。収蔵コンテンツの99%はその企業と無関係なのに、それも使えなくなってしまった」

保存活動が新たなムーブメントを引き起こした例をシファルディは知っている。05年に彼がサイトでセガのミニゲーム『デザート・バス』のROMを公開したところ、ある劇団が触発されて即興劇を制作。上演は年に一度、病気の子供たちのための募金イベントとして行われ、07年から10年以上も続いている。

古いゲームを手に入れるには、時間も手間も金もかかる。シファルディによれば古くて貴重な電子回路基板には700ドル以上の値が付く。彼が最近収集しているのはSNKの80年代のアーケードゲームだが、たった一つのゲームを探し出して試すために、彼はパスポートを持って飛行機に乗り、おまけに2時間も電車に揺られて日本の田舎まで赴かなければならなかった。



共通の文化遺産の一部

ビデオゲームの法的問題に詳しい弁護士のマーク・ウィップルによれば、オリジナルのデータを手に入れることは著作権侵害を避けるために重要だ。「実際にゲームを所有していなければならない。単にROMの配布サイトに行ってコードを手に入れ、手元で保管するのでは駄目だ。何であれ少なくとも一つは合法的なデータを入手しておかなければ」

シファルディはゲームの黎明期を、映画におけるサイレントの時代に例える。どちらの場合も、オリジナル作品の多くは失われてしまった。観客が飽きて次に行ってしまえば、もはや何の儲けも生み出さないからだ。今でこそゲームを一種の芸術として捉える人は多いが、30年前には子供だましの価値のないものという扱いだった。ゲームセンターの経営者も、機器の保存に何の意義も見いださなかった。

「こういう(古い)ゲームは大切だ」とウィップルは言う。「映画や文化的ムーブメント、文学にも大きな影響を与えてきた。私たち共通の文化遺産の一部と言っていい」

<本誌2019年03月05日号掲載>



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モ・モズチ

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