Infoseek 楽天

平成最後の就活で崩壊する「嘘」と、大人が知らない新常識

ニューズウィーク日本版 2019年3月7日 17時55分

<そもそも「一瞬で一生の会社を選ぶ」ことができる人なんているのだろうか......積もり積もった違和感は大きな波となり、仕事選びの常識を今、覆そうとしている。昨年発売から瞬く間にベストセラー入りした『転職の思考法』著者が明かす、新時代の就活とは?>

3月1日、口火を切った就活戦線。ツイッターの検索ワードに「#就活解禁」がたちまち躍り出て、この1週間、多くのメディアで、リクルートスーツに身を包んだ学生たちが就活イベントに殺到する様子が報じられた。

就活といえば、昨年、経団連の中西宏明会長から「通年採用への移行」が発表されて話題となったが、3月解禁と言われる就活も、水面下ではとっくに始まっている。一斉解禁を待たずして、インターンなど別口で青田刈りがあるのは、就活生の間では常識。今年1月1日時点ですでに内定率4.7%(日本経済新聞)と伝えられている 。

【関連記事】新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

就活で行き違う、親子関係

昨今の就活生たちに見られる特徴として、親世代との認識の乖離がある。具体的にはふたつある。ひとつは「志望企業」について。もうひとつは「就活のやり方」についてだ。ひとつ目は 「メガバンク」や「電機メーカー」などを事例にしばしば語られるが、実はふたつ目も親世代が体験した就活から、今、我が子が直面する就活は全くと言っていいほど別物。たとえば、大学の就職課に赴いて求人票を探す、なんてこと、今の大学生はしない。

そこで今回、親が勘違いしそうな「今どきの就活の進め方」を、○×クイズ形式で紹介したい。少しでも参考にしていただけると嬉しい。

就活シーズンの子を持つ親が知るべき「就活、5つの新常識テスト」

【問1】インターンは内定とは関係ない、職業体験である。
――答えは×。内定に繋がる企業も多数存在。

【問2】社風は説明会に行って調べるのが主流。
――答えは△。今はWebで社員のクチコミから会社の評判はもちろん、インターンや説明会自体の評判を調べられるサイトも。中途採用向けのイメージが強い、企業クチコミサイト「Vorkers」を就活の情報収集に活用する学生は多い。

【問3】OB訪問は大学のキャリアセンターから申し込むのが主流。
――答えは×。最近はウェブで探せる。社会人と学生をつなぐ「VISIT OB」「ビズリーチキャンパス」などがある。

【問4】エントリーシートは時間をかけて、先輩に見てもらって練り上げる。 
――答えは△。最近は通過したエントリーシートを見て、まずは「合格基準を知る」ことができる。そこから自分で添削したり、先輩や就活仲間などに話を聞くことが多い。

正しいかどうかなんて誰も分かんないけど、停滞感ある新卒採用市場に一石を投じる姿に痺れすぎて渋谷まで来た#ES公開中 pic.twitter.com/lPosqbhbEo— やス (@Yasu0131) 2019年3月1日

(渋谷駅構内に期間限定で置かれている過去の内定獲得者のエントリーシート。誰でも無料で持ち帰ることが出来る)


働き方が変わらない国、日本。次の働き方改革は、就活・仕事選び。 #ES公開中|高木新平 @Shimpe1|note(ノート) https://t.co/tjxF6efpet— 高木新平 / NEWPEACE代表 (@Shimpe1) 2019年3月3日


【問5】面接は、自己PRと志望動機の話し方をとにかく場数を踏んで練習して挑む。 
――答えは×。エントリーシートだけでなく、面接で聞かれる内容もネットで見られる時代になった。このような面接の過去問を閲覧できるサービスが、楽天が運営する「みん就」「ONE CARRER」他、複数存在している。

ナビサイトが触れない「クチコミ」という名のブラックボックス

就活真っ只中の子を持つ親にも、就活を来年以降に備える子を持つ親にも心得ておいてほしいことがある。それは、就活は立派な情報戦になってしまっているということだ。

もともと就活市場は「リクナビ」「マイナビ」の2強状態だった。これらのサービスの特徴は、企業からの広告によって作られている点だ。ネットで調べればわかる情報をまとめてくれること自体は一定の価値はあるだろう。

だが、いま、これらのサービスは少しずつ市場からの存在感を失いつつあるのだ。その前提には「仕事選び」に関する3つの変化がある。

【関連記事】もはや常識? 日本の就活に「インターン」がもたらす功罪とは



平成の終わりとともに始まる「就活の民主化」

ひとつ目のキーワードは「多様化」。これまでの仕事選びは「一瞬で一生の会社を選ぶのが普通」だった。学生は短期間の間で、一生勤める会社を選ばなければならなかった。だが、いまは、欧米の企業の多くが実施しているように、通年採用を導入する日系企業も少しずつだが増えつつある。

あるいは、厚生労働省が発表している「新規学卒者の離職状況」調査で、大卒者の3割が入社から3年以内に離職すると報告されていることから、逆を言えば7割が、転職していると読み取ることができる。新卒で入社した会社に一生を左右されるという認識は若年層で薄れているし、現に中途市場の活況化にも表れている。

次に「民主化」。リクナビ、マイナビでは手つかずの、世間的には「言いにくい」情報が表面に出てきている。このトレンドは就活に限ったことではなく、この10年のうちに、外食産業にクチコミサイトが浸透したように、他業界で実際に起こっている。企業の広告情報ではなく、「本当のことが知りたい」というユーザーの思いが支持される、というのは就活でも同じだろう。

【関連記事】逃げ切りたい中高年は認めたくない? ミレニアル世代が高給でも仕事を辞める理由


One carrer Inc.

最後に就活生側の前提条件による不利益の撤廃だ。言うなれば、「分散化」。例えば首都圏の旧帝大や難関私立大学は圧倒的に学生の情報量が違う。大企業の本社機能が集中するのは言わずもがな、東京であり、説明会の回数も地方に比べ圧倒的に多い。

一方で、地方の就活生は物理的にも、前提条件から不利な状況に置かれている。自分の志望する企業に入社したOB・OGに辿り着くのだって難しいし、面接や説明会でひとたび東京に出ようと思えば、交通費や滞在費は馬鹿にならない。これからは、そもそも選考の前に横たわる「就活格差」の是正が本格化し、一極集中→地方や学歴を問わない就活が台頭してくる。

【関連記事】米国で早期リタイアを目指すミニマリストの若者が増えている理由:FIRE運動の背景を探る

実はこれらの新常識は、大学のキャリアセンターの人でも一部の熱心な方を除いては、まだまだ知られていない。リクナビ、マイナビといった旧来のナビサイトとしては、自社と利益相反になるので触れづらい部分でもあるため、大々的な周知やサービス変更は手つかずのまま、というのが実態である。

サービスや仕組みにおいて、ブラックボックス化されている部分こそが、ユーザーファーストの観点から本当に大切なこと。新卒採用サービスも、そこを明らかにして、就活生に判断を委ねればいい。だが、現在の就活システムから滲み出るのは、企業の都合、世間の建前によって作られた「一般常識と見せかけた嘘」が少なくない。親たちが知らないところで、子供は「嘘」の中で人生を賭けて闘っていることを理解していただければ幸いだ。


[執筆者]
北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。新卒で博報堂、ボストンコンサルティンググループを経験し、2016年ワンキャリアに参画、最高戦略責任者。1987年生。デビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)は12万部11万部 。2作目『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)は発売1カ月で6万部を突破中。レントヘッド代表取締役も兼務。

北野唯我

この記事の関連ニュース