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ベネズエラの危機解決は南アフリカとチリに学べ

ニューズウィーク日本版 2019年3月8日 16時20分

<マドゥロ政権交代には軍部の説得が不可欠――野党が手本にすべき先例は外国にある>

政治の混乱が続き先が見えないベネズエラ。国会議長のフアン・グアイドは自分こそ正当な大統領だと宣言し、マドゥロ政権打倒に立ち上がれと軍部に呼び掛けている。しかし現政権下で甘い汁を吸ってきた軍部は、今のところマドゥロ大統領と一蓮托生を決め込んでいる様子だ。

今、両陣営が繰り出しているのは危険な瀬戸際政策だ。野党陣営が勝っても、壊滅状態にある経済と引き裂かれた社会を引き継ぐことになる。マドゥロが延命すれば一段と独裁化し、民主化の可能性は遠のく。

ベネズエラ危機の最も効果的な解決策は両陣営の交渉によって平和的に政権交代を行うことだが、その道は閉ざされつつある。だが世界に目を向ければ、民主的に政権交代が行われた例はいくらもある。

そこでまず大事なのは、野党陣営が結束を固めつつ、暴力に訴えかねない過激な勢力を排除することだ。急進派が与党ベネズエラ統一社会党(PSUV)議員の訴追を求めたりすれば、話はまとまらない。マドゥロ政権下で飢えや迫害、困窮する生活にあえぐ多くの国民が、チャベス主義の打倒と、このイデオロギーの有力な信奉者の訴追を望むのはもっともだ。だが現政権派の議員たちは、マドゥロが追放されても自分の身は安泰だという確信を持てない限り、交渉に応じないだろう。

マドゥロを受け入れる国

野党陣営が手本とすべきは南アフリカのマンデラ元大統領だろう。政治犯として長く刑務所に収監されていた彼は、アパルトヘイト廃止後に大統領の座に就き、民主主義の実現には忍耐が必要であることを説いた。

次に野党陣営に必要なのは、軍を説得して政権交代を受け入れさせ、マドゥロの逃亡か降伏を導くことだ。

軍部はチャベス前政権以来さまざまな経済活動から甘い汁を吸い、国営石油会社PDVSAの運営も任されてきた。野党が軍の支持を取り付けるために最も効果的なのは、PDVSAの収益の一部を軍部にも分配することだ。現にチリのピノチェト政権が89年に民政移管した後、新政権は軍上層部に恩赦と経済権益の維持を認めた。

3つ目は与党の指導部に対し、現状の維持はもはや不可能であり、政権交代後も与党議員は選挙に参加でき、運が良ければ当選できると説得することだ。ただし、彼らは未曾有の経済悪化を招いた張本人で、汚職と利益供与を続けてきたのも事実だが。



4つ目は野党と与党の穏健派の間で総選挙実施後、連立暫定政権を発足する合意を結ぶことだ。ここで再び手本になるのは南アフリカ。アパルトヘイト廃止後の5年間、マンデラが率いるアフリカ民族会議は、アパルトヘイトを推進した旧与党の国民党に対し、低支持率にもかかわらず政権への参加を認めた。

以上の条件がそろえば、政権交代は可能だ。アメリカも軍の介入をちらつかせるより、中米諸国や米州14カ国でつくるリマ・グループなどの関係各国と協力し、裏方に回って交渉を後押しすべきだ。

だが国際的な人道支援物資の搬入を政権側が阻んだように、合意に至るまでの障害は多い。マドゥロは与野党の合意が成立すれば、自身が排除されることを承知しているからだ。

大統領退任に当たり、ほぼおとがめなしに出国する機会を与えられれば、マドゥロも考えを改めるかもしれない。それに、ベネズエラの政治的な後ろ盾となり、マドゥロを喜んで受け入れる国が少なくとも1つはある。ロシアだ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年03月12日号掲載>



※3月12日号(3月5日発売)は「韓国ファクトチェック」特集。文政権は反日で支持率を上げている/韓国は日本経済に依存している/韓国軍は弱い/リベラル政権が終われば反日も終わる/韓国人は日本が嫌い......。日韓関係悪化に伴い議論が噴出しているが、日本人の韓国認識は実は間違いだらけ。事態の打開には、データに基づいた「ファクトチェック」がまずは必要だ――。木村 幹・神戸大学大学院国際協力研究科教授が寄稿。


マイケル・アルバートゥス(シカゴ大学政治学准教授)

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