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「巨大インフラ」アマゾンの規制は現実的なのか

ニューズウィーク日本版 2019年3月8日 17時40分

<NY第2本社騒動を機に強まる独占批判――専門家からさまざまな手法が提案されているが>

米国で今、アマゾン・ドットコムへの逆風が強まっている。

米大統領選へのロシア介入疑惑など、フェイスブックの相次ぐ不祥事で、テック業界をめぐる世論は一変した。それに追い打ちをかけたのが、昨年11月のアマゾン第2本社建設予定地決定だ。同社は238の公募都市から、バージニア州北部とニューヨーク市を選定。特にニューヨークでは、30億ドルの助成金や税優遇措置が地元民や政治家の怒りを買い、デモや集会が相次いだ。

こうした抵抗を受け、アマゾンは2月14日、ニューヨークでの本社建設を断念した。ワシントンのシンクタンク「オープン・マーケッツ・インスティテュート」のバリー・リンいわく、税優遇措置を受けるというアマゾンの「戦略ミス」が、同社の略奪的独占を世間に知らしめた。

時価総額で世界屈指の企業に上り詰めながら、アマゾンは昨年、連邦法人税を払っていない。税制・経済政策研究所(ITEP)の報告書によると、18年の純利益は112億ドルと前年の約2倍だったが、今年も税金はゼロの上、連邦政府から1億2900万ドルの還付金が出るという。また、発送作業の過酷さや低賃金など、従業員の扱いも問題視されてきた(批判を受け、昨年11月に最低賃金を引き上げた)。

強まる逆風の中、専門家からはアマゾンの「構造分離」を主張する声も出ている。ニューヨーク大学経営大学院教授のスコット・ギャロウェーは、昨年5月のアトランティック誌のポッドキャストで、最強のネット通販と、市場シェアの3割強を占めるアマゾンウェブサービス(AWS)、自社配送のために同社が拡大させてきた物流事業への3分割を提案した。

権力を「中立化」させればいい

2年前「アマゾンの反トラスト(独占禁止)パラドックス」という論文で話題をさらった新進気鋭の研究者リナ・カーンによると、アマゾンは「巨大インフラ企業」だ。製造・小売業者は商品を市場に出すべく「アマゾン鉄道」に乗らねばならず、契約条件はアマゾンの腹一つ。消費者の反応や売れ筋など、膨大なデータも握っている。

また、資金力を生かした圧倒的な低価格や人気商品の自社製造により、出品業者が駆逐されれば、さらに独占が進む。アマゾンなどテック大手の独占に米政府がメスを入れなければ、「社会や民主主義にとって厄介な事態が生じる」と、カーンは警鐘を鳴らす。



だが、経営コンサルタンティング会社イーコン・ワン・リサーチのハル・シンガーによれば、米司法省がアマゾンを独占禁止法違反で訴えたとしても、勝算は低いという。同法の適用には、独占の乱用が消費者に「実害」を与えることを示す必要があるからだ。「アマゾンは(反トラスト法の)隙を突いている」と、シンガーは言う。

一方、リンの考えでは、アマゾンの最大の問題は「サイズ」ではない。権力を中立化させるような規制さえあれば、独占でも危険性がなくなる。要は、アマゾン鉄道を使うしかない出版社などの足元を見て、同一サービスでも、版元によって価格を変えたり、扱いを変えたりすることが問題なのだ。差別やひいきが禁じられれば「独占に伴う権力の大半は失われる」という。

とはいえ、政治献金やロビー活動によるアマゾンの甚大な政治的影響力を前に、規制に尻込みする政治家も多い。「いかなる介入も一筋縄ではいかない」と、シンガーは懸念する。

世間からの愛憎が渦巻くなか、巨大企業アマゾンの独占は続く。

<本誌2019年03月05日号「特集:徹底解剖アマゾンエフェクト」より転載>



※3月5日号(2月26日発売)は「徹底解剖 アマゾン・エフェクト」特集。アマゾン・エフェクト(アマゾン効果)とは、アマゾンが引き起こす市場の混乱と変革のこと。今も広がり続けるその脅威を撤退解剖する。ベゾス経営とは何か。次の「犠牲者」はどこか。この怪物企業の規制は現実的なのか。「サバイバー」企業はどんな戦略を取っているのか。最強企業を分析し、最強企業に学ぶ。


肥田美佐子(ニューヨーク)

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