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韓国のPM2.5が危機的状況で、比較的空気の綺麗な日本に注目が集まる

ニューズウィーク日本版 2019年3月12日 17時30分

<3月6日、ソウルなど16地域に「粒子状物質(PM2.5)の非常低減措置」を発令した。大気汚染が深刻化するなか、空気が比較的清浄な日本に関心が集まっている......>

韓国環境部は2019年3月6日、ソウルなど16地域に「粒子状物質(PM2.5)の非常低減措置」を発令した。翌日の車両規制や外出時にマスクの着用を促す内容で、最長記録を更新する6日連続の発令となった。

大気汚染調査機関「エアビジュアル」による世界主要都市の大気汚染度が高い都市でソウルが1位、仁川が2位になった。国際環境団体グリーンピースが調査した経済協力開発機構(OECD)加盟国のPM2.5濃度でも韓国の44都市が汚染度の高い上位100都市に含まれている。対策を見出せない政府に業を煮やした市民のなかには防毒マスクを買う人も現れた。なお、中国の北京は58位で、上位に含まれた日本の都市はない。

エアビジュアル 3月12日17時現在

エアビジュアル 3月12日17時現在

付け焼き刃な対策が次々と

文在寅大統領は、PM対策は環境部だけの力ではできないとして、国務総理室を筆頭にすべての官庁が総力体制を取って取り組むよう指示を出したが、公職者の中には政府の方針を無視する者もいる。李洛淵(イ・ナクヨン)首相は自動車のナンバーの奇数と偶数で運行を制限する車両2部制を守らない職員には人事上の不利益を与えるなど厳しい姿勢で臨む考えを示した。

また、文大統領は長期的な対応策だけでなく、即時に対応しなければならないと述べたが、環境部の対策は従前と変わりがなかった。趙明来(チョ・ミョンレ)長官が報告した対策は、車両の運行制限と石炭発電の上限規制、PMを排出する施設の稼動時間調整の履行状況を点検し、散水車の運行を拡大するといった内容で、これに先立つ緊急次官会議で決まった対策も散水車の運行拡大や車両のアイドリングの取締り強化、水を使った清掃などである。

補正予算を組んででも尽力するという大統領の強い意向を受けた政府は、新たな対策として保育園や幼稚園、学校などへの大型空気清浄機の設置を検討することを決め、国会でも与野党が社会的弱者にマスクを支給する補正予算の審議など、PM対策を早急に審議することで合意した。

突拍子もないアイデアも

抜本的な対策を求める要望に突拍子もないアイデアが飛び出した。公共建物の屋上に空気清浄機を設置するという計画で、環境部は開発が進めば1台1億から2億ウォンとなり、輸出など国の経済にも効果があると発表したが、専門家はその金額では工場の煙突程度のものしか作れないと疑問視する。中国の一部メディアが、中国西安に空気清浄タワーが完成し、一定の効果があったと報道している。しかし、効果を客観的に分析したレポートはない。

ソウル市も公共建築物に光触媒塗料を塗って粒子状物質を除去する案を提示した。これにも環境工学科の教授が、効果を出すには少なくとも10万軒に塗る必要があり、沈んだ後や曇りの日には効果をあげにくいと疑問を投げかけた。こうした政府や市の付け焼刃的な政策に批判の声が上がっている。



比較的空気が清浄な日本に関心が集まっている

大気汚染が深刻化するなか、空気が比較的清浄な日本に関心が集まっている。ソウルの1平方メートルあたりのPM2.5濃度が125マイクログラムを記録した6日正午の東京のPM2.5濃度は環境省の基準をわずかに下回る32.49マイクログラムだった。東京の一日の平均値はWHOの指針より低い21.84マイクログラムである。

高度成長期に光化学スモッグに悩まされた日本が、官民上げて対策に取り組んだ結果だが、韓国の政府関係者や専門家のなかには、地理的要件をあげる人が少なくない。中国で発生したPM2.5粒子が風に乗って朝鮮半島まで飛来した後、徐々に落下して日本に到達する前に飛散するという主張だ。

しかし、以前から繰り返されてきた飛来説に中国政府は真っ向から反対する。中国外務省の陸慷報道局長は会見で、中国の大気汚染は大幅に改善されたがソウルの粒子状物質の濃度が上昇しているなどと反論した。

中国と共同で人工降雨実験を推進する案も浮上

中国と共同で人工降雨実験を推進する案も浮上している。中国は過去に世界最大規模の人工降雨実験を行なったとされている。具体的なデータは公表していない。2019年1月に韓国気象庁の国立気象科学院と環境部の国立環境科学院が行なった実験でも雨や雪が降る様子は観測されず、人工降雨でPMの低減効果が確認された事例はない。

これまで韓国では問題が起こるたびに、国民は政府に対策を強要してきたが、非常低減措置の発令を繰り返すだけの政府に頼る時間的な余裕はない。対応するマスクや空気清浄機に加えて、防毒マスクを買う人も増えている。非常低減措置が発令された3月1日から3日にかけて空気清浄機の販売数は前年比で171%増加し、防毒マスクの販売量も前年同期比82%増となっている。


佐々木和義

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