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英刑務所、受刑者にコーディング研修、再犯率の低下目指す

ニューズウィーク日本版 2019年3月18日 18時30分

米の「再犯率ゼロ」プロジェクトがモデル

英国の刑務所で、受刑者にコーディング(プログラム言語に従いコードを書くこと)を教え、出所後の職探しに役立ててもらうプログラムが開始することになった。英国政府が3月15日に発表した。

英デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は、120万ポンド(約1億7800万円)の基金「デジタル・スキルズ・イノベーション・ファンド」を立ち上げている。貧困層など社会的に弱い立場にいる人たちが仕事を得やすくなるよう、デジタル系のスキルの研修などを行うためのものだ。今回ここから10万ポンド(約1480万円)が、受刑者へのコーディング研修に当てられることになった。

プログラムでは、厳選した受刑者を対象に、出所後に職が見つけやすくなるようコーディングを教える。研修の実施は、非営利団体コード4000が行う。研修はこれまでもイングランド北東部のハンバー刑務所で試験的に行われてきたのだが、新たな資金提供を受けて、研修実施の対象がホーム・ハウス刑務所にも拡大されることになった。受講できる受刑者の数は1000人以上増えることになるという。

コード4000によると、刑務所でのコーディング研修は、米国で実際に行われている同様のプロジェクトをモデルにしたもの。米国ではザ・ラスト・マイルと呼ばれるプロジェクトが、カリフォルニア州のサンクエンティン刑務所で2010年に開始された。

ザ・ラスト・マイルによると、現在はカリフォルニアの他にインディアナ州、カンザス州、オクラホマ州にある全12施設でコーディングの研修を実施している。これまで460人にコーディングを教えてきたが、研修を受けた人たちの再犯率はゼロだという。なお、米国での平均的な再犯率は55%だ。

将来的には英刑務所でコーディング研修のネットワークを

コード4000が行うコースは4つのステージに分かれている。ステージ1はHTML、CSS、Javascriptなどの基本的なものから始まり、GitやTDD、MVC、データベース、フルスタック開発などを学ぶ。ステージ1を卒業できた人は、外部のクライアントを相手に本物の仕事を手がける。ここではわずかながら収入が得られ、この収入はプロジェクトの資金に還元されることになる。さらにステージ3になると、刑務所から日帰りで外出し、クライアントの元へ行って仕事をする。最後のステージ4は、デベロッパーとしてフルタイムの職を得ることを目指す。

前述の10万ポンドの資金は研修そのものの他に、英北東部シェフィールドに雇用拠点を新たに開設することにも使われる。この雇用拠点は、コーディング研修の受講生が出所した後にもサポートやアドバイスを提供したり、さらなる研修を行なったりしていく予定だ。



政府によると、出所後に職を持っている人は持っていない人と比べ再犯率が6〜9パーセントポイント低くなる。そのため政府は2018年、受刑者が出所後すぐに仕事を得られるようなシステムの構築を目指す「教育・雇用戦略」を策定している。

デジタル・クリエイティブ産業担当閣外相のマーゴット・ジェームズ氏は、「前科者がコーディングのスキルを身に付ければ、人生が一変するような仕事に就く手助けになるし、非常にやりがいのあるキャリアの道も開ける」と話す。

刑務所担当閣外相のロリー・スチュワート氏はコード4000について、刑務所での教育と研修は受刑者本人だけでなく、再犯率を下げることで社会にも恩恵を与えると評価している。

政府は将来的に、英国内の刑務所でコーディング・ワークショップを行うネットワークを築いていきたいとしている。



2014年カリフォルニア、サン・クエンティン刑務所の様子 From Prisoners To Programmers-KPIX CBS SF Bay Area




松丸さとみ

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