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5G戦争:ファーウェイ追放で得をするのは誰か?

ニューズウィーク日本版 2019年3月20日 11時35分

<5Gをめぐる米政府のファーウェイ締め出しにヨーロッパも追随。それにより得をするのは、エリクソンやノキア――ではないかもしれない>



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華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)がアメリカから追放されて、得をするのはどの企業なのか。5G(第5世代移動通信システム)を製造するファーウェイは中国政府の補助金の助けもあり、世界市場の28%を占めている。

米政府はファーウェイ製品がスパイ行為に利用される恐れがあるとして、政府機関やその契約企業のファーウェイ製品使用をほぼ全面的に禁止にした。ヨーロッパでもそれに続く動きがある。

このことは北欧の大手エリクソンとノキアにとって大きな追い風になるのか。エリクソンは5G市場で13%、ノキアは17%のシェアを持っている。だが、今後の成り行きはそれほど楽観視できない。

アメリカがファーウェイを締め出せば、エリクソンやノキアを含む外国企業が中国市場に入れなくなる可能性がある。「中国は欧米企業に報復するだろう」と、テレコム業界のコンサルティング企業シグナルズリサーチグループのマイク・セランダーは言う。

となると、得をするのは韓国のサムスンではないか。5G市場では新参者だが、スマートフォン製造で世界をリードし、5Gの重要部品である先進型チップセットを作ることができる。

「政府がファーウェイ製品の使用を禁じた場合、契約企業はそれ以外の選択肢を自由に考えられる」と、セランダーは言う。「それなら、サムスンにしようと思うかもしれない」

途上国はやはりファーウェイ

5G製品は登場したばかりだが、通信網の未来を左右するこの技術に多額の投資を検討している国は多い。4Gへの移行で「アプリ経済」がもたらされたように、5Gも大きなイノベーションをもたらすだろう。

しかし今のアメリカ政府の動きは、5G技術インフラをめぐる各国の決定に、政治およびセキュリティー上の影響を与えかねない。

1月下旬には、EUが5G通信網におけるファーウェイ製品の使用禁止を検討中と報じられた。同じく1月下旬、英携帯通信大手ボーダフォンは、ファーウェイ製品の購入を一時的に停止すると発表した。

こうした動きは、業界にファーウェイ製品のセキュリティーに関する不安を残した。「顧客の間に疑念が広まってしまった」と、エリクソンのボリエ・エクホルムCEOは1月の投資家との電話会議で述べた。中国の5Gテクノロジーは欧米諸国より進んでいる面もあり、エリクソンも「大きな投資をしている」と彼は言う。



同社のライバルであるフィンランドのノキアも中国に投資。5G移行に関して、中国の3大通信会社と20億ユーロを超える契約をまとめている。

アメリカの反ファーウェイの動きが、中国でのエリクソンの地位を脅かす可能性もある。「どんな影響があるか分からない」と、エクホルムは言う。

中国は別の形でも、欧米企業に報復するかもしれない。アメリカの検察がカナダに、ファーウェイの孟晩舟(モン・ワンチョウ)CFO(最高財務責任者)の引き渡しを求めるなか、中国がさらに多くの欧米人ビジネスマンを拘束するのではないかと心配する声もある。既に複数のカナダ人が中国で拘束されている。

しかし長い目で見れば、この騒ぎもファーウェイにとっては大したことではないのかもしれない。5Gネットワークの利益がリスクをはるかに上回る途上国にとっては、ファーウェイのスパイ疑惑など妨げにもならないのではないかと、アメリカは懸念している。

「安価または無料で5Gネットワークをつくってやると言われたら、小さな貧しい国はスパイ行為など気にしない」と、米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所のジェームズ・A・ルイスは言う。

結果的にファーウェイは、世界の5Gネットワーク機器市場で3分の2のシェアを占めることになるかもしれない――ルイスはそう推測している。

From Foreign Policy Magazine

<2019年3月26日号掲載>

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※この記事は本誌「5Gの世界」特集より。詳しくは本誌をご覧ください。


イライアス・グロル(フォーリン・ポリシー誌記者)

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