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学力格差より深刻な、低所得層の子どもの「自尊心格差」

ニューズウィーク日本版 2019年3月20日 16時0分

<成長期の子どもの自尊心は褒められることによって養成されるが、低所得層の家庭では自尊心が低くなる傾向が顕著に見られる>

子どもの時期に育むべき心情の一つとして、自尊心がある。自尊心(self-esteem)とは自分に対する好意的な評価を言い、積極的に外に出て行って、いろいろな経験を積もうという意欲の基盤となる。

平たく言えば自信だが、おごり高ぶりのようなネガティブな意味合いのものではない。自尊心とおごり(傲慢)は対の概念で、後者は前者がないことによる弱みをカバーする防衛機制のようなものだ。

よく言われるように、日本の子どもの自尊心は低い。残念なことに、学年を上がるにつれて低下する傾向もある。国立青少年教育振興機構の調査によると、「今の自分が好きだ」という子の割合は、小学校4年生では62.4%だが、中学校2年生になると36.7%に下がる(『青少年の体験活動等に関する調査』2014年)。小さいうちは、これまでできなかったことができるようになり、褒められることが多いが、年齢が上がると学業成績の序列が意識されるようになるからだろう。

自尊心の多寡は、家庭環境とも関連している。小学校4~6年生のデータをもとに、家庭の年収と自尊心のクロスをとってみると<図1>のようになる。



家庭の年収と自尊心はきれいに相関している。富裕層ほど、「自分を好き」と思っている子どもの割合が高い。家庭環境とリンクした学力格差の問題は知られているが、こうしたメンタルの部分でも格差が出てしまっている。



自尊心は他者から認められる経験で育まれるが、それがどれほど得られるかは家庭環境によって異なる。褒められる頻度も違う。子どもの(些細な)取柄を見つけて褒めるのには労力が要るが、低所得層にはその余裕がない。嫌でも目に付く短所をあげつらい、叱る(頭ごなしに怒る)ことの方が多い。それを通り越して虐待に走ってしまうこともある。これでは、子どもの自尊心は打ち砕かれる。

実際、褒めることは大事なことで、褒められる頻度と自尊心は関連している。家庭の経済力が同レベルの児童を取り出し、家で褒められる頻度と自尊心のクロス集計をしてみる。<図2>は、結果を図示したものだ。



家庭の年収が同程度であっても、親によく褒められるグループほど自尊心が高い傾向にある。褒めることは、自尊心の涵養(かんよう)にあたって効果があるようだ。「叱るより褒めよ、叱る前に褒めよ」。多くの育児書に書かれていることだが、これは正しい。

自尊心は、自信をもって社会のあらゆる領域に参画し、自己を成長させることを可能にする。親から子への富の再生産の要因として最も大きいのは、自尊心格差であるかもしれない。「褒める」のはそれを断ち切るのに有効だが、親の心がけ次第でできることだ。学校でも、褒める指導に重点をおく必要がある。

加齢に伴い、自尊心の基盤は多様化していくことにも注意したい。学業成績ばかりを重視し、子どもの個性や嗜好を圧し潰すのは論外だ。昔に比べて、生き方はより多様になっているのだから。

<資料:国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する調査』2014年>


舞田敏彦(教育社会学者)

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