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ポモドーロ・テクニック:世界が実践する時間管理術はこうして生まれた

ニューズウィーク日本版 2019年3月22日 6時35分

<ソフトウェア開発者からCEOまで、世界中から支持を集める「25分+5分」の時間管理術は、30年以上前にイタリア人大学生が考案した。その生みの親による初の公式本が、いよいよ日本に上陸する>

「ポモドーロ・テクニック」という言葉を聞いたことがあるだろうか。仕事や勉強、家事などのタスクを25分間続けた後に5分の休憩を取り、そのサイクルを最大4回続けるという時間管理術のことだ。

日本では、メンタリストDaiGo氏が著書『自分を操る超集中力』(2016年、かんき出版)で紹介したことで広く知られるようになったが、生産性や効率性の向上、時間管理に関するビジネス書ではよく紹介されている。

そのポモドーロ・テクニックの生みの親は、イタリア出身のコンサルタントであるフランチェスコ・シリロだ。ソフトウェア・エンジニアであったシリロは、自分のウェブサイトでポモドーロ・テクニックを公開。それが常に締切に追われ、時間との戦いを余儀なくされているソフトウェア開発者の間で最初に広まった。

さらには、IT業界にとどまらず、ニューヨーク・タイムズやハーバード・ビジネス・レビューなどで紹介されると、世界中を飛び回り、時間に追われるCEOなどのビジネスエグゼクティブや国際機関職員も実践するようになっていく。

シリロはその後、2009年にポモドーロ・テクニックに関する本を自費出版。2018年には、アメリカの大手出版社クラウン・グループから著書を出版した。そして、日本でもこのたび、『どんな仕事も「25分+5分」で結果が出る――ポモドーロ・テクニック入門』(斉藤裕一訳、CCCメディアハウス)として刊行される。ポモドーロ・テクニック開発者本人の手による、初の公式本だ。

トマト型のキッチンタイマーで時間を区切った

とはいえ、実はポモドーロ・テクニックの誕生は30年以上前の1987年に遡る。シリロは当時、大学生。家族との休暇先である、ローマ北方のストリという町で社会学の試験勉強をしていた。

「3冊の本を読まなくてはならない。試験の日までもう時間は少ない。もうだめだろう。集中できない。どうしても気が散ってしまう」というシリロの焦りは、試験勉強をしたことのある人であれば、誰もが経験があるだろう。その焦りを沈め、それまでに感じたことのない不思議な落ち着きを与えてくれたのが、「ポモドーロ」だった。

ポモドーロとはイタリア語で「トマト」のこと。シリロはトマト型のキッチンタイマーをセットし、時間を区切って試験勉強をしたのだ。

シリロは大学生活を送るなかで、自分は集中力とモチベーションが弱いと感じており、スランプに陥っていた。自分はいったい何をしているのか、時間を無駄にしているのではないか......。そこで彼は「10分間、本当に身を入れて勉強をすることができるか」と自らに問い掛け、時間を測るのにトマト型のキッチンタイマーを使うことにしたというわけだ。



時間を区切って勉強する――「ただそれだけ?」と思われるかもしれない。

だが、限られた時間でタスクを終えた充実感と、時間内でやり遂げなくてはいけないという集中力の虜(とりこ)になったことが、シリロがその経験をポモドーロ・テクニックとして洗練させていくきっかけになった。

その後、勉強、後に仕事の能率を高めることに打ち込んだシリロは、「1ポモドーロ」の適切な長さ(今でこそ1ポモドーロの単位は25分だが、最初に試したのは2分だったという)と休憩時間、持続可能な回数などを研究し続け、人間にとって最大限の生産性と効率性を引き出せる時間が「25分+5分」であることを突き止める。

それが集中力や意識を向上し、モチベーションを高め、粘り強さにつながり、結果として生産性の向上になるとして世界中で支持を得ているのだ。

そのポモドーロ・テクニックだが、具体的な手順は以下の6つのステップから成る。

ステップ1:実行するタスクを決める。ステップ2:タイマーを25分に設定。ステップ3:タイマーが鳴るまでタスクを行う。ステップ4:タイマーが鳴ったら作業を終了し、「今日やること」シートにチェックマークを付ける。ステップ5:5分間の休憩を取る(その際、深呼吸したり、瞑想したり、コーヒーを飲むなど、仕事とはまったく関係のないことをして脳を休ませる)。ステップ6:ポモドーロを4回した後に長い休憩(20〜30分)を取る(次のポモドーロで新しいタスクができるように完全に脳を休ませる)。

※シリロの公式サイトhttps://francescocirillo.com/pages/pomodoro-techniqueより

警戒すべき「内的中断」が発生する理由

25分という時間は、集中力に自信がある人にとっては短すぎるように思えるかもしれない。しかし、25分間たった1つのタスクに完全に没頭し続けるということが、いかに難しいことであるかはポモドーロ・テクニックを実際にやってみれば分かるだろう。

電話や来客など自分では制御できないことは「外的中断」と呼ぶが、それによりポモドーロは無効となる。1からやり直しだ。一方、メールをチェックしたくなったり、誰かに連絡する必要を急に思い出したり、他の人を気にしたりしてしまうのは「内的中断」で、これもポモドーロを無効にする。他の仕事と一緒にやるマルチタスクは言うまでもない。

特にシリロが警戒するのは、この内的中断である。内的中断が起こるのは、さほど重要ではないことをやっているときなどで、そもそもの目標設定が適切でないことに原因があるからだ。心に疑問や不安をもったままで物事を遂行しようとすれば、先延ばしをしようとしたり、他のことに目移りしたりするのも当然だという。



ポモドーロ・テクニックとは、無駄のない目標を定め、選び抜いたタスクをこの内的中断と対峙しながら完遂するという、ストイックな25分間なのである。

しかし、現実には、内的中断と外的中断で挫折することが多々あるだろう。それでも、構わない。「最初は自分の目標達成に集中できなくても心配は要らない。(略)自分自身にやさしくていいのだ」とシリロは言い、「次のポモドーロはうまくいく」と本書で何度も励ましている。

まずは、このポモドーロ・テクニックをやってみること。実際にやってみなければ、自分のやりたいことを成し遂げることも、仕事や勉強の成果を継続的に高めることも、時間を価値ある味方にすることもできない。

情報化とグローバル化により常に何かに追われている現代人にとって、時間が敵だからこそ、それを味方にする方法をポモドーロ・テクニックは教えてくれる。30年以上前に考案されたテクニックが現在でも有効なのは、決して不思議ではない。


『どんな仕事も「25分+5分」で結果が出る
 ――ポモドーロ・テクニック入門』
 フランチェスコ・シリロ 著
 斉藤裕一 訳
 CCCメディアハウス



ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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