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インドネシア・パプアで豪雨による洪水被害拡大 死者100人超、森林伐採が影響か

ニューズウィーク日本版 2019年3月21日 14時36分

<雨期終盤で雨水が蓄えられた山間部に豪雨が続き土石流が発生。急速な開発が進められるパプアの特殊な事情も>

インドネシアの最東端、ニューギニア島の西半分近くを占めるパプア州で3月16日以来、豪雨による土砂崩れ、洪水が発生。国家災害対策庁(BNPB)によると20日までに104人が死亡、79人が行方不明となっている。環境団体などは土砂崩れや洪水の一因として、被災地付近の山間部で不法に進められた開発で多くの樹木が伐採されたことがあると指摘している。

インドネシアでは11月から3月までが雨期とされ、篠突くような豪雨が集中的に降ることが多く、首都ジャカルタでも幹線道路や立体交差の底部で冠水被害が発生することも頻繁で、エンストを起こした自動車を安全な場所まで押す臨時のアルバイト少年たちが待ち構えているのが日常の風景である。

そんな大雨による被害には慣れているインドネシアだが、豪雨による土砂崩れ、鉄砲水、土石流の発生も特に山間部では頻発している。

3月16日午後6時ごろから降り始めた大雨は17日午前まで続き、パプア州・州都ジャヤプラの西郊外、空港のあるセンタニ地区に洪水と土砂崩れの大きな被害をもたらした。

「ジャカルタ・ポスト」などの地元紙の報道では、救援活動に当たっているBNPBの最新のまとめとして、センタニ地区を中心にこれまで104人が死亡し、160人が負傷、うち85人が重体、79人が行方不明となっているほか、約1万人が18カ所の施設に避難しており、住居の被害は350戸、商店は100店が破壊されたとしている。

センタニにある空港では駐機場にあったチェンドラワシ航空の軽飛行機が土砂に流されて数メートルの土砂に埋まり、BNPBの救助ヘリコプターも土砂に埋まったという。

雨はその後も断続的に続いており、2次災害発生の恐れがあることや、孤立した集落に車両が接近できないことなどから捜索救難活動は進んでおらず、被害は今後も増える見通しだという。

これまでの降水量に加えてセンタニ湖に流れ込む河川が増水しており、湖面の水位もこれに伴って上昇し、湖内にある島のアヤポ村では家屋の屋根付近まで一時水に浸かったと地元メディアは伝えている。

食料、薬品など支援物資が不足

BNPBなどによると、特に洪水、土石流の被害が深刻なのはセンタニ・コタ地区、ヒネコンベ地区、ドボンソロ地区で周辺に点在するカンプン・セラ、イファール・ブサールなどの5つの村でも破壊されたり埋もれたりした家屋が少なくないという。

現在センタニ地区を中心に少なくとも6800人が住居の被害、被害の恐れがあることなどから付近の学校などで避難生活を送っている。しかし、医薬品や食料、飲料水などのほかに毛布、赤ちゃんのミルクなどが大幅に不足しており、深刻な状況にある。このため現地対策本部は中央政府などに緊急支援を求めているという。

現地の国軍部隊はこうした状況の中、3月17日に約5000食分の食料を避難民に緊急配布したという。



1月にはスラウェシでも被害、30人死亡

インドネシアは雨期が終盤に近づく1月以降はそれまでに降った雨水が山間部に蓄えられていることなどから、豪雨が続くと一気に土砂崩れや土石流が発生して被害がでることがある。

2018年1月22日から23日にかけてスラウェシ島南スラウェシ州で降り続いた豪雨では、州都マカッサルやその東に隣接する北から南へマロス県、ゴワ県、ジュネポント県の各地で土砂崩れや河川増水による洪水、堤防決壊などが発生し死者30人以上、3400人が避難、家屋の浸水約3000戸という被害が出ている。

ジャカルタなどの都市部でも下水処理や河川の増水対策が不十分なことから、豪雨が数時間続いただけで、主要道路を含めて各地点で冠水が発生し、大渋滞となることも珍しくない。

そうしたインドネシアに対して日本はいろいろなフェーズでの技術提供やコンサルティングなどで洪水対策を支援しているが、まだまだ道半ばというのが現状だ。

パプアの特殊事情も背景か

パプア州と西パプア州は以前イリアンジャヤ州としてインドネシアでも最も開発が遅れている遠隔地であった。そうした地理的要素に加えて、1998年に民主化運動の高まりを受けて崩壊したスハルト長期独裁政権下では東ティモール州、アチェ州と並んで独立組織による武装闘争が続いていたという政治的にも特別な地域に位置付けられていた。

国軍による「軍事作戦地域(DOM)」に指定されて治安維持のために投入された国軍部隊による多くの人権侵害事件が報告され、ジャワ島などからの国内移民政策で急速に「脱パプア化」が図られるとともに、豊かな天然資源の開発が環境破壊も顧みられることなく急ピッチで進んできた経緯もある。

インドネシア最大の環境保護団体「ワルヒ(インドネシア環境フォーラム)」が今回のセンタニ地区の被害に関して「センタニ近隣の山の大規模開発による森林伐採で、土石流が居住地区に流れ込み、被害が拡大した可能性が高い」と述べて、自然災害に人災の要素を指摘していることには注目するべきだろう。

今でも細々とだが、独立組織「自由パプア運動(OPM)」による武装闘争が続くパプア州。大規模な洪水や土砂崩れとは直接関係はないものの、不法な森林伐採や乱開発が被害拡大の一因であるとするなら、パプア州が置かれた特殊な事情もあながち無関係とは言えないのではないだろうか。


[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



パプアでの洪水被害を伝える現地メディア metrotvnews / YouTube

大塚智彦(PanAsiaNews)

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