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突如騒がしくなった予備選レーストップのバイデン周辺 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年4月4日 13時30分

<民主党予備選レースで支持率トップを維持してきたバイデンが、出馬表明を前に次々とスキャンダルに見舞われている>

ジョー・バイデン氏といえば、1973年から2009年まで36年にわたって上院議員を務め、その後は副大統領として8年間のオバマ政権を支えたベテラン政治家です。1942年11月生まれですから、現在76歳と高齢ですが、現時点では「2020年の大統領選立候補」への待望論があります。

バイデン氏への期待というのは、もしかしたら待望論というレベルを超えているかもしれません。現時点での2020年大統領選への民主党の予備選レースでは、全国での世論調査では、ほぼ常にトップ。その支持率の平均値は28.8%で、2位のサンダース議員(21.8%)を大きくリードしていますし、残りの中堅から若手の候補が一桁の支持率しかない現状では、予備選レースの台風の目といった存在です。

一方で、主要な候補のほとんどが「自分は大統領選に出馬する」と宣言している中で、バイデン氏だけはこの点に関して沈黙を守り、「近日中に判断をする」として、決定を先延ばししていました。

ところがここ数日間、バイデン氏に関するスキャンダルが次から次へと報じられるという事態になっています。まず、「不適切なことをされた」と訴えて名乗り出る女性が相次いでいます。

女性の数は少なくとも3人で、告発の中身は「身体を触られて不快だった」というもの、具体的には「握手をしながら背中を触られた」という種類のもので、同氏が副大統領として活動していた時期の話です。写真やビデオで証拠が残っているものもあります。

どれも「性的な行為」とまではいかないものですが、相手の女性が「不快」という印象を持てば2019年現在の基準で言えば「アウト」ですし、同時に「時効なし」として断罪されるのは否定できません。

それにしても時期が時期であるため、ライバルのバーニー・サンダース上院議員の陣営が「バイデン潰し」のためにスキャンダルを仕掛けたという説も取り沙汰されました。ですが、この件に関してはサンダース氏自身が全面的に否定しています。

もしかしたら「被害者」の中には、事件の時点では「オバマ=バイデン政権を支持」していたので特に告発はしなかったが、現在は「より左派の政策に共感」している中で、同じ民主党内の中道派であるバイデン氏への悪感情が増したのかもしれません。仮にそうであっても、バイデン氏に不利な状況には変わりはありません。



もう1つのスキャンダルは、昨年の中間選挙の際にジョージア州の知事選挙に出馬して惜敗しつつも全国的な知名度を高めた黒人女性のステーシー・エイブラムス氏の暴露です。エイブラムス氏は「バイデン陣営から、大統領選でコンビを組まないか」というアプローチがあったことを明かしつつ、自分は拒否したし、バイデン氏については大統領候補に相応しくないと考えていると表明したのです。

党内左派として将来を期待されているエイブラムス氏としては、ここでバイデン氏を見限っておいたほうが、政治的に有利という計算が見え隠れしますが、この暴露について言えば、これもまたバイデン氏の印象を下げる効果として作用しています。

つまり、「トランプ時代を終わらせる」ために大統領選で勝負するには、白人男性で党内中道派のバイデン氏の属性は「マイナス」であり、その点を補完するために左派で黒人女性のエイブラムス氏にアプローチしたことは、打算的に過ぎるという印象が広まったからです。

誇り高いバイデン氏としては、こうしたスキャンダルに巻き込まれるのを潔しとしないで、立候補を辞退する可能性もありますが、仮にそうだとしても、また反対に自身の名誉回復を賭けて立候補するにしても、民主党としてはイヤな展開となってきました。

今回の騒動は、あらためて民主党に「働き盛りの年齢」で「党内宥和のできる中道左派で、左派政策にも実行可能な中道政策にも理解が深く」「トランプ時代を帳消しにできるような女性か有色人種の新鮮味のある本命候補」というのが「いない」ことを浮き彫りにしています。民主党の予備選は、もうこの時点で泥仕合の様相を呈してきました。

こうした展開は、他でもないトランプ大統領を喜ばせるだけです。実際にトランプ氏は「ジョー、楽しんだかい?」つまり、バイデン氏に対して、女性を「触って楽しんだか?」と呼びかける、そんな極めて下品な発言をしています。

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