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トランプの最新エセ科学:風力タービンは「がんの元」

ニューズウィーク日本版 2019年4月4日 15時8分

<化石燃料を賛美し、再生可能エネルギーを嫌うトランプの「悪意ある無知」>

ドナルド・トランプ米大統領は4月2日に開かれた共和党全国委員会の夕食会で行ったとりとめのないスピーチの中で、風力発電を批判した。風力タービンは周辺の土地や不動産の価値を下げるし、鳥を殺すし、がんの原因にもなると主張した。

地球温暖化を認めず、風力発電に断固として反対してきたトランプは、石炭をはじめとする従来型の化石燃料を賛美し、再生可能エネルギーを異様なまでに悪者扱いすることが多い。科学者たちは、そうしたトランプの姿勢を「悪意ある無知」と称している。

風力発電を批判する際にトランプが最もよく口にするのが、風力タービンが鳥を殺すという主張だ。確かにそうだが、風力タービンが鳥を殺す確率は、そのほかのエネルギー源に比べてはるかに低い。また彼は、風力タービン(トランプは風車と混同しているようだ)に頼ることは、風が吹かなければ発電もできないことを意味するとも主張しているが、蓄電池があれば問題ない。

トランプは2日の夕食会で、2016年の大統領選で対立候補だったヒラリー・クリントンに対する批判の一環として風力発電を取り上げた。クリントンは大統領選の際、従来型の化石燃料への依存を減らし、二酸化炭素排出量を減らすために、風力タービンへの投資を増やすべきだと提言していた。

「がんの元」はむしろ化石燃料

「ヒラリーは風力タービンを設置したいと考えていた」とトランプは聴衆に語った。「自分の家の近くに風車ができたら、自宅の評価額が75%下がる。めでたいことだ」「それに風力タービンが出す騒音はがんの原因になると言われている」と、新たな主張を展開。風力タービンの音を真似て、聴衆の笑いと拍手を誘った。

風力タービンの騒音ががんを引き起こすことを裏付ける証拠はない。アトランティック誌によれば、風力発電に反対している複数の団体は、風力タービンが出す「インフラサウンド」と呼ばれる低周波の騒音が吐き気や睡眠不足、不安感をはじめとする健康問題を引き起こす可能性があると主張するが、それも事実ではない。

これまでのどの研究にも、低周波音によって害がもたらされたことを示したものはなく、いかなる類のがんも騒音と関連づけられたことはない。一方で、石炭やその他の化石燃料の採取・抽出や貯蔵、移送や燃焼は、がんの高い発生率と関連づけられている。



トランプはスピーチの中で、風力タービンによって多くの鳥が殺されていると、いつものように嘆いた。「あそこはまるで鳥の墓場だ。鳥を愛する人は決して風車の下を歩かない方がいい。とても悲しい光景だから。まるで墓地だ。かわいそうな鳥たちのために、私たちは小さな像を建ててあげたんだ」

3月末にミシガン州で開いた2020年大統領選に向けた選挙集会でも、トランプは国内の風力発電インフラを拡大すべきというクリントンの計画を攻撃した。「ヒラリーはあらゆるところに風車を建てたがった。風車を建てましょう、風が吹かない日にはテレビを消してちょうだい、ってね」

3月はじめに開かれた保守政治活動集会(CPAC)では、トランプは民主党左派が提案している「グリーン・ニューディール」政策を攻撃する中で、風力発電の有効性を一蹴。「風がやんだ時が、あなたの家の電気が止まる時だ」と主張した。

だがトランプの反対にもかかわらず、アメリカの風力発電業界は成長を続けている。米風力エネルギー協会によれば、同業界は2017年に10万人以上を雇用し、アメリカのエネルギーの6.3%を供給した。米エネルギー情報局によれば、風力発電は2019年までに水力発電を超えて、アメリカ最大の再生可能エネルギー源になる見通しだ。

(翻訳:森美歩)



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デービッド・ブレナン

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