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リビアの首都トリポリ近郊で軍事衝突、内戦本格化か

ニューズウィーク日本版 2019年4月8日 20時0分

<国連が支援する暫定政権を認めないリビア国民軍は、すでに国土の大半を掌握し、首都トリポリに迫っている>

騒乱の続くリビアで、国連が支援する暫定政府が置かれた首都トリポリに、国土の大半を掌握した民兵組織「リビア国民軍」が迫っている。

リビア国民軍を率いるハリファ・ハフタルは4月4日、国連のアントニオ・グテレス事務総長が訪問中のトリポリに向けた進軍を命じた。ハフタルは「前進する時は来た」と述べる一方で進軍は「平和裏」に行うとし、「白旗を振っている市民」を撃たないようにと命じた。

リビア国民軍がトリポリ南郊のガリヤンを制圧したのを受け、フランス、イタリア、アラブ首長国連邦(UAE)、イギリス、アメリカは「軍事的な威嚇や脅しはリビアを再び混乱に突き落としかねない」とする共同声明を出した。

2011年に当時のカダフィ政権がNATOの支援を受けた反体制派により倒されて以降、リビアでは武装勢力の衝突が繰り返されてきた。

4月5日までにリビア国民軍はトリポリ郊外まで進軍し、近くのアジジヤの町を制圧。リビア国民軍の広報担当者は、首都侵攻作戦の一環として同軍がトリポリの国際空港を「完全に掌握した」と明らかにした。

またこの広報担当者は、ジュフラの砂漠地帯にある空軍基地などの軍事拠点を含む、約1000キロもの遠隔地からも攻撃を行ったと説明した。彼は「(リビア国民軍は)任務完了まで立ち止まらない」と述べた。

有力者2人はどちらも元カダフィ政権

トリポリにはハフタルのライバルで、国連の支援を受けたファイズ・シラージュ暫定首相がいる。ハフタルとシラージュはいずれもカダフィ政権に仕えており、シラージュは住宅省に務めていた。ハフタルは軍の高官だったものの、アメリカの支援を受けてカダフィに反旗を翻し、その後アメリカに亡命し市民権を取った。


左がハフタル、右がシラージュ

2011年のカダフィ政権の崩壊以降、2人は最も影響力のある指導者として台頭した。だがハフタルはその軍事的手腕ゆえに、イスラム国(IS)や他の武装勢力との戦いを率いる立場におり、国の将来に足場を築くにも有利だった。だが一方で彼は、敵に対する電撃作戦で非合法の殺人を行ったとされている。

ハフタルはバイダに本拠を置くアブドゥラ・サーニ「首相」やトブルク「議会」の支持を受け、リビアの国土の大半を支配下に収めている。ハフタルはまた、ロシアの支援を受けようともしてきた。リビア国民軍が8月に本誌に対して明らかにしたように、その目的はあくまでもカダフィ時代の軍事合意に対する制裁の解除に向けて国連に働きかけをし、リビアでの選挙を提案するフランスを支持し、元宗主国であるイタリアの干渉を食い止めることだった。



これまで何度もハフタルと接触してきたロシア政府だが、最近の軍事攻勢については不支持の姿勢を明らかにしている。

「われわれはリビアのすべての関係する勢力が平静を保ち抑制を示すべきだと信じる」とロシア外務省は5日、声明を出した。「軍事的シナリオは同国のただでさえ非常に困難な状況をさらに悪化させる可能性があり、これが新たな犠牲者と破壊を生むだろうことは明らかだ。そんな展開では、国連の支援の下、総選挙を通して不変で効果的な国家機関を築くことを最終的な目的として、リビアに安定的で包括的な政治プロセスを作るという見通しは遠のいてしまうだろう」

一方、シラージュを支えているのが、暫定政権寄りの複数の民兵組織が結成した「トリポリ防衛軍」だ。これらの民兵組織にはトリポリ革命大隊やアブ・サリム中央保安部隊、ナワシ大隊、そして内務省の特別抑止部隊などが含まれる。だが、勢力争いを背景にトリポリが無法状態に陥る中で、誘拐などの犯罪に手を染めているとされる組織もある。

トリポリの分裂した政界で同様に影響力を持っているのがイスラム主義勢力が主流のリビア国民議会だ。同議会の自称「救国政府」もまた、シラージュ暫定政権を認めていない。リビア国民軍は当初、トリポリ市から約30キロの検問所を制圧したものの、暫定政権寄りの民兵の反攻に遭った。首都攻防の戦いは激しいものになりつつある。

追記:最新の報道によれば、ハフタル率いるリビア国民軍とシラージュ率いる暫定政府軍は7日、トリポリ近郊で衝突。激しい戦闘で互いに多くの死者を出した。さらに8日にかけて互いの陣地を空爆。本格的な内戦に陥る危険が増している。

(翻訳:村井裕美)


トム・オコナー

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