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中国政府が遂にHuaweiと組む──「5G+4K・8K」で

ニューズウィーク日本版 2019年4月11日 19時19分

4月9日、中国政府が初めてHuaweiと提携することになった。これまで政府指定の企業から全て排除してきた中国政府側が譲歩した形だ。これにより中国は一気に5Gを軸としたデジタル・シルクロード完遂を狙う。

「スーパーハイビジョン映像産業発展行動計画」でHuaweiを指名

中国政府中央行政省庁の一つである工信部(中華人民共和国工業と信息化部)(信息=情報)は今年3月1日に国家広播電視(テレビ)総局と中央広播電視総台(台=局)とともに、「超高清(スーパーハイビジョン)視頻(映像)産業発展行動計画(2019-2022)」(工信部聯電子〔2019〕56号)を発布した(以下、「行動計画」)。「5G」と「4K」および「8K」を中心とした最新バージョンだ。

これに関して4月9日、中央テレビ局CCTVは最近立ち上げた「行動計画」の中で、Huaweiを政府指定の協力プラットフォームとして挙げたのだ(この頁にある「央広網」の簡体字は「中国中央広播電視総台」のウェブサイトという意味)。ほかに中国移動(China Mobile)、中国電信(China Telecom)、中国聯通(China Unicom)という中国3大電信があるが、Huaweiを中国政府が協力民間企業として指名したのは、これが初めてのことである。

「行動計画」では、2020年までに、まずは解像度「4K」が放映できる条件を整えた都市を選定して実行し、2022年の北京冬季オリンピックまでには解像度「8K」を普及させていく計画であるという。もちろん次世代通信規格「5G」を今年中に落着させ、自動運転やIoTなども含めた全ての通信インフラに関する「行動計画」を実行するために4兆元(4月10日の為替1元=16.55円に基づけば、66.2兆円)を投資する。

これまでHuaweiを排除し続けてきた中国政府

これまで中国政府の大型プロジェクトにおいて、中国政府が指名するプラットフォームの中にHuaweiの名前が挙がったことがない。昨年の改革開放40周年記念100名リストから始まって、それらの実態を列挙してみよう。

1.100人リストから排除

2018年12月30日付けのコラム<Huawei総裁はなぜ100人リストから排除されたのか?>に書いたように、昨年12月18日に北京の人民大会堂で改革開放40周年記念大会が開催され、改革開放に貢献した100人が表彰されたが、その中に改革開放とともに歩み、最も貢献したはずの民間企業Huaweiの任正非CEOの名前はなかった。

2.BATIS(AI国家戦略の協力企業)からも排除

今年2月12日付のコラム<中国のAI巨大戦略と米中対立――中国政府指名5大企業の怪>で、中国政府が指名したAI国家戦略に協力する5大企業BATIS(Baidu、Alibaba、Tencent、Iflytek、Sense Time)の中にHuaweiの名前はない。



3.社会信用システム構築のための63社からも排除

これに関しては、まだコラムを書く時間が取れないままでいるが、中国の全ての人民を監視するための社会信用システム構築には、63の企業や組織が関わっている。それらは全て中国政府によって指名されたものだが、この中にもHuaweiの名前はない。

このように、これまで中国政府とHuaweiとの間には大きな距離感が横たわっていた。その理由に関しては、このコラム欄で数多く書いてきたが、最大の理由は国有企業ZTEとHuaweiとの間で30年間にわたって続いてきた内紛があったからだと言っていいだろう。国有企業は中国政府そのものなので、Huaweiは中国政府と闘ってきたと言っても過言ではない。

譲歩したのは中国政府側だった

2018年12月7日、<このままHuaweiを排除すると日米にとって嫌な事態が:一刻も早く解明を>というコラムを書いたが、あの時点で心配したのは、Huaweiがあまりに追い詰められると、Huaweiのための半導体メーカーであるHiSilicon(ハイシリコン)の半導体を外販するということに踏み切るのではないかという可能性だった。そうなると中国のハイテク国家戦略「中国製造2025」は一気に前進する。

ところが屈したのはHuaweiではなく、中国政府側だった。

アメリカはHuaweiが「中国政府と癒着し、情報を抜き取って中国政府に渡している」としてHuaweiの排除を関係各国に呼びかけてきたが、欧州諸国は、アメリカがその証拠を見せない限り、アメリカの言う通りには動かない。

デジタル・シルクロード――中国「5G、欧州こそが主戦場」

3月26日付のコラム<G7切り崩す習近平「古代シルクロードの両端は中国とイタリア」>や4月1日付のコラム<マクロン大統領も対中ダブルスタンダード>などに書いたように、中国はすでにG7の一角を崩し、EUをも中国の傘下に置こうとしている。

G7のうち、「一帯一路」への参加を表明したのは、たしかにイタリア(今年3月23日)だけではあるが、ヨーロッパ諸国は24ヵ国が、そしてEUでは既に14ヵ国が加盟していた。その後、3月27日に、中国の海南島で開催されていた「博鰲(ボアオ)アジアフォーラム」に参加したルクセンブルクのベッテル首相が李克強首相と会談して「一帯一路」への協力に関する覚書に署名したので、これでEUは15ヵ国が一帯一路に協力を表明したことになる。

これらの国々は、基本的に5GにおいてHuaweiを排除するとは言わない。

中国にとって「一帯一路」は巨大経済圏であると同時に巨大軍事戦略圏であり、かつ巨大デジタル・シルクロードでもあるのだ。



5Gは通信インフラや社会インフラに寄与するだけでなく、軍事にも応用されることは明らかなので、Huaweiを採用するか否かは、今後の国際社会の趨勢を決めていく大きな分岐点となる。

欧州諸国はアメリカが「証拠を出さない」ことを理由に、「Huaweiを排除しない」方向に動いている。習近平国家主席が欧州を歴訪した最終段階で(3月26日)、EU欧州委員長は5Gに関して「特定の企業を排除するか否かは、EU加盟国がそれぞれ独自に決める権利を持っている」としてHuaweiの排除を唱えなかった。

李克強首相は4月9日、ベルギーの首都ブリュッセルで、欧州理事会のトゥスク議長、EU欧州委員会のユンケル委員長と共同で、第21回中国・EU首脳会議を主宰した。

そこでは中国・EUを「世界の2大安定パワー」であり「世界の2大主要経済体」であると位置づけた上で、「中国・EU投資協定」を2019年内に、ハイレベル協定を2020年内に妥結させることを約束した。

また「一帯一路」に関しては、中国・EU相互接続プラットフォームの枠組みの下で協力を強化するとしている。

李克強首相はその後クロアチアを訪問し、第8回中国・中東欧諸国首脳会議に参加して、「16+1協力」を強化すると述べた。中国は欧州を着々と中国側に惹きつけるのに余念がない。

習近平国家主席がイタリアを訪問した同じ日に、EUは首脳会議を開き、中国を「パートナー」と同時に「競争相手」と位置づけるなど、対中戦略の見直しに乗り出しているかに見えたが、トランプ大統領への批判的姿勢が、どうも中国・EU関係を近づかせているように見える。

そうでなくともHuaweiは欧州で強い。

ここに来ての、中国政府とHuaweiの提携は、その傾向を加速させるのではないか。今後の動きに注目したい。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

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