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これが米大企業のほとんどを所有し牛耳るビッグ・スリー

ニューズウィーク日本版 2019年4月12日 13時39分

<低コストで株式投資を民主化したと言われるインデックス・ファンドだが、一方ではS&P500企業の90%の最大株主に台頭し、競争を歪めはじめている。>

株式投資に大きな構造変化が起こっている。そしての副産物は、アメリカ企業の経営にも劇的な影響を及ぼしそうだ。

かつては個人投資家も機関投資家も、フィデリティのようにファンド・マネージャーが高い運用成果を狙って銘柄選びをするアクティブ運用型の投資信託に投資を行っていた。だが2008年の金融危機以降、投資家たちはS&P500のような株価指数(インデックス)に連動するインデックス・ファンドに大きくシフトした。

その変化は驚異的で、2007年から2016年の間に、アクティブ運用型ファンドからは約1兆2000億ドルの資金が流出し、インデックス・ファンドには1兆4000億ドル超の資金が流入した。

2017年の第1四半期にはインデックス・ファンドへの流入額が2000億ドルを上回り、四半期ごとの流入額としては過去最高を記録した。

民主化ならぬ独占化

投資行動におけるこの史上最大規模の変化の大きな理由は、インデックス・ファンドの方が遥かに低コストである点にあった。

アクティブ運用型のファンドは市場の分析を行い、マネージャーたちにはその仕事に対して高額な報酬が支払われる。にもかかわらず、彼らの大多数は株価指数を上回る運用成績をあげることができていない。

それなのに、アクティブ運用型のファンドには毎年1~2%の手数料を支払わなければならない。インデックス・ファンドなら手数料はその10分の1で済む。手数料が安いほうがいい、という心理がはたらくのは当然だろう。

一部の有識者は、投資家の手数料の大幅に削減したこの変化を「投資の民主化」と称賛する。だがこの変化がもたらしたその他の影響は、民主化とは程遠い。アクティブ運用型ファンド業界とインデックス・ファンド業界の重要な違いの1つは、前者は細分化されており、大小含め何百という資産運用会社から成るということだ。

一方、急成長を遂げてきたインデックス・ファンドのセクターは集中が進んでおり、アメリカの資産運用市場は今や、わずか3社の独占状態になっている。ブラックロック、バンガードとステート・ストリートの「ビッグ・スリー」がそれだ。

インデックス・ファンドの台頭は必然的に、株式保有を通じた企業所有の集中を伴っている。ブラックロック、バンガードとステート・ストリートの3社を合わせた株式運用額は11兆ドル近く。これは全ての政府系ファンドを合わせた額を上回り、世界のヘッジファンド業界の運用額の3倍以上にのぼる。

筆者らが参加しているCORPNET調査プロジェクト(企業支配ネットワークについての研究会)は2017年4月に発表した報告書の中で、ビッグ・スリーの企業所有状況について包括的なマッピングを行った。その結果、3社を総合すると、アメリカの全上場企業の40%で最大の株主になることが分かった。




Figure 1: Network of ownership by the Big Three in listed US firms. (See our paper for explanation of colours).
Fichtner, Heemskerk & Garcia-Bernardo (2017)



2015年、これらの企業(1600社にのぼる)の収益は総額9兆1000億ドル。時価総額は合わせて17兆ドルを上回り、2350万人超を雇用していた。

アメリカの大手企業の株価指標であるS&P500を見ると、状況はさらに極端だ。ビッグ・スリーは、S&P500銘柄の90%近くにおいて、最大の株主となっている。S&P500にはアップルやマイクロソフト、エクソンモービル、GE(ゼネラル・エレクトリック)やコカ・コーラなど錚々たる銘柄が含まれており、S&P500は最も買われているインデックスだ。




Figure 2: Statistics about the ownership of the Big Three in listed US firms.
Fichtner, Heemskerk & Garcia-Bernardo (2017)



ファンドがオーナーと認識を

株式の所有には株主権限が伴う。ブラックロックは2017年3月、自社は株式の「所有者」ではなく、顧客である投資家たちの「証券保管機関」だと主張した。

専門的な分類はともかく、ビッグ・スリーがそれらの株式に付随する議決権を実際に行使していることは否定しがたい事実だ。したがって企業の幹部らは、彼らを事実上の「オーナー」と認識すべきだろう。

ビッグ・スリーは、その影響力を行使したい考えを公然と表明している。2015年、バンガードのウィリアム・マクナブ会長(当時)はこう語っていた。「過去には、当社のパッシブ(受動的)な運用スタイルが、企業ガバナンスに関するパッシブな姿勢を示唆しているという見方があったが、これは誤りだ」

そこでこれら3社の投票行動を分析したところ、それぞれ一つの企業統治部門を通して議決権を行使していることが分かった。実際に株式を所有しているのは社で運用している多数の個別のファンドであるため、これはかなりの労力を要する作業だ。

このようにして、わずか3つの企業がアメリカ企業全体にとてつもなく大きな潜在的影響力を行使している。だが興味深いことに、ビッグ・スリーが各企業の年次総会で議決権行使をするときは、90%のケースで経営側の提案を支持している。そして、株主側の提案(たとえば社外取締役を求める案など)にはほとんどの場合、反対票を投じているのだ。(ビッグ・スリーも株主なのに)

ビッグ・スリーは本当は、米実業界に対して影響力を行使することに乗り気ではないという解釈もある。コストを最小限に抑えることを第一目標としているビッグ・スリーが、本当に議決権を望んでいるのかを疑問視する声もある。







ファンド株主の運用益に配慮

それでも、これら3社が企業オーナーとして前例のない立場を占めていることは間違いない。これは将来、どのような結果につながるのだろうか?

研究はまだ初期段階だが、一部のエコノミストたちは既に、この株主権限の集中が競争に悪影響を及ぼしかねないと主張している。

この数十年にわたって、アメリカでは航空から銀行に至るまでの数多くの業界が、一握りの企業によって独占されてきた。そしてビッグ・スリーは(合わせると)ほぼ常に、これらの業界の数少ないプレイヤーの筆頭株主である。

アメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空でも、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカとシティ・グループでも、筆頭株主はビッグ・スリーで、これらの企業はいずれもS&P500の構成銘柄だ。

これらの企業のCEOはおそらく、ビッグ・スリーが自社の大株主であることを十分に認識しており、それを考慮した上で意思決定を下しているだろう。つまり、各航空会社が値下げにあまり意欲的ではないのは、そうすることで自分たちの共通のオーナーであるビッグ・スリーの運用益が減ることになるからだと考えてほぼ間違いない。

ビッグ・スリーはこうした方法で、アメリカ企業の多くに対して、新興の「構造的圧力」を行使しているのかもしれない。

彼らがそれを目指したかどうかに関係なく、ビッグ・スリーは途方もない株主権限を蓄積してきたし、今後もそうし続けるだろう。インデックス・ファンドは規模のビジネスであり、このことは、現時点で別の運用会社が市場シェアを獲得するのはきわめて難しいであろうことを意味する。

多くの点で、インデックス・ファンドの流行によって、ブラックロック、バンガードとステート・ストリートの3社は「準独占的地位にある公益企業」のようなものに化しつつある。企業(株式)所有、ひいては潜在的影響力の一極集中に直面し、今後アメリカ企業に対する新たな規制を求める声が増えていくことも予想される。

(翻訳:森美歩)

Jan Fichtner, Postdoctoral Researcher in Political Science, University of Amsterdam; Eelke Heemskerk, Associate Professor Political Science , University of Amsterdam, and Javier Garcia-Bernardo, PhD Candidate, University of Amsterdam

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ヤン・フィヒトナー(アムステルダム大学・博士研究員)他

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