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逮捕劇で再び動き出した、ウィキリークス第2章

ニューズウィーク日本版 2019年4月18日 11時0分

<米当局の機密を片っ端から暴露したアサンジが籠城を終えロンドンで拘束――なぜ今なのか、これからどうなるのか>

内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジが、6年半に及んだ籠城生活を終えた。

4月11日にエクアドル政府がアサンジの亡命の受け入れを撤回。英警察は直ちに在英エクアドル大使館に向かった。連行されるアサンジは白いひげを伸ばし、白髪を後ろで束ね、アメリカの作家・故ゴア・ビダールの本を抱えていた。その意図は定かではないが、ビダールは米政府を厳しく批判したことでも知られている。

アサンジはロンドンの裁判所に出廷し、直接の逮捕容疑である保釈条件の違反で有罪を認定された。彼はスウェーデンでの性犯罪容疑で国際指名手配され、10年にイギリスで逮捕された後、保釈中の12年6月に亡命を求めて大使館に逃げ込んだ。

米司法省は逮捕から数時間後に、連邦大陪審が18年3月にバージニア州連邦地裁にアサンジを起訴していたことを明らかにした。現在、アメリカへの身柄引き渡しを求めている。

ハッカーから透明性を求める活動家に転じ、逃亡の身となったアサンジのこれまでとこれからについて検証すると──。

米司法省の起訴理由は?

米陸軍の情報分析官だったチェルシー・マニングと共謀して、米政府機関のデータベースに違法侵入した罪で起訴された(マニングは既に機密漏洩罪で禁錮35年の有罪判決を受けている)。

アサンジはマニングをそそのかして機密情報を探させ、データベースのパスワードの解読を助けたとされる。

公開されているチャットの記録によると、10年3月8日にマニングはアサンジに、パスワードに関する暗号の解読は「得意」かと質問。アサンジは「イエス」と答え、マニングに暗号のデータを渡すように促した。

起訴の影響は?

今回はコンピューター詐欺・悪用防止法違反に問われている。アサンジを擁護する人々は、さらに重いスパイ活動法での起訴を危惧していた。

それでも、米司法当局がジャーナリストを狙い撃ちする前例となり、報道を萎縮させるという声が上がっている。起訴状が非難するアサンジの行動の大半は、国家機密について取材をするジャーナリストのやり方に似ているからだ。

例えば、アサンジとマニングが「クラウド上のストレージサービス」を使ってファイルをやりとりしていたことが、共謀行為の一部とされている。アメリカのメディアが情報源の身元を保護しながら機密情報を受け取る際も、この方法をよく使う。

マニングに政府機関の書類を提供するように促したことも、取材でよくある手法だ。マニングがもう渡す書類がないと伝えると、アサンジは次のように返した。「私の経験上、好奇心の目が乾くことはない」



ウィキリークスを皮切りに機密情報や数百万本の外交公電などが公開され、米司法当局は、情報を漏洩した政府関係者を次々に起訴した。ただし当時のオバマ政権は、情報漏洩を画策したとしてアサンジを起訴はしなかった。彼を追及すれば、ジャーナリストの訴追に関する危険な前例になると考えたからだ。

アサンジは、自分の仕事はジャーナリズムであり、メディアに対する慣例的な保護が自分にも適用されるべきだと、繰り返し主張。アサンジの弁護士ジェニファー・ロビンソンは、「アメリカに関する真実の情報を発表して米当局に訴追されたジャーナリストは、誰でも(米当局に)身柄を引き渡されかねない」と述べている。

アメリカに引き渡される?

現時点では何とも言えない。引き渡しの可否はイギリスの裁判所で激しく争われだろう。

エクアドルのレニン・モレノ大統領はアサンジの亡命を取り消すに当たり、拷問や死刑判決を受ける可能性がある国に引き渡さないよう英政府に文書で約束させたと言っている。

だが、それだけではアメリカに送られる可能性は否めない。EUの法律では拷問や死刑判決を受ける恐れがある国への容疑者の引き渡しは禁じられている。だがロンドンの米大使館の公式ホームページを見ると、イギリスは日常的に容疑者をアメリカに引き渡しているようだ。

一方、最近のハッキング事件での司法の判断がアサンジに有利に働く可能性もある。イギリスの裁判所は昨年、FBIなど米政府機関のコンピューターシステムに侵入した罪に問われた被疑者のアメリカへの引き渡し要請を退けた。アメリカの刑務所での扱いを危惧したからだ。テリーザ・メイ英首相その人も、内相だった12年に米政府へのハッカーの引き渡しに待ったをかけたことがある。

ほかの罪にも問われる?

過去に問題となった事件に関連して、アサンジはさまざまな容疑で取り調べを受けることになりそうだ。

例えば米情報機関はアサンジが16年の米大統領選に向けた選挙戦中にロシアの情報機関と共謀して、米民主党幹部のコンピューターシステムに侵入し、盗んだ文書を公開したとにらんでいる。トランプ陣営へのテコ入れを目指すロシア政府にとって、民主党の内部文書の暴露は極めて有効な一手となった。

この件についてはバージニア州の連邦地裁で大陪審が起訴の当否を審理しており、今後アサンジが起訴される可能性は否めない。ちなみにマニングは減刑され釈放されていたが、ウィキリークスに対する大陪審の調査で証言を拒否したため今年3月に収監された。

スウェーデンでの性的暴行の容疑については既に捜査が打ち切られているが、被告の1人がアサンジ逮捕時に捜査再開を求め、スウェーデンの捜査当局はこの訴えを検討する意向だ。



なぜ今逮捕されたのか?

エクアドル大使館に6年半も立てこもるうち、アサンジは何とも厄介な「居候」と化した。

まず滞在費用はエクアドル持ちだが、これが結構な負担になる。世界の大半の国々を敵に回した男を保護下に置いていれば、思わぬ外交摩擦も生じる。

しかもアサンジは衛生観念が乏しく、大使館員は大いに迷惑を被っていた。お荷物扱いされるようになったアサンジは、トイレで用を足した後始末をちゃんとすること、他国の内政に干渉しないことなどを約束させられ、誓約書に署名した。

モレノがついに堪忍袋の緒を切らしたのは、自身と妻のアカウントがハッキングされ、盗まれた文書が政敵の手に渡ったためだ。政敵は文書を基にモレノと中国企業との疑わしい取引を告発。ウィキリークスがこの1件をツイッターで世界中に広め、モレノの顔に泥を塗った。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年04月23日号掲載>



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イライアス・グロル

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