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米大手スーパーが無人運転車による配送サービスを開始

ニューズウィーク日本版 2019年4月19日 15時0分

<昨年3月の試験運転中の死亡事故で止まっていた、自動運転車の開発競争が再び激化する>

配達を頼んだドライバーが遅刻したり、道に迷ったりして怒る時代は過去のもの――これからは配達ロボットを叱る時代だ。全米最大規模のスーパー・チェーン「クローガー」は今週、無人運転車による初の商品配送サービスをテキサス州ヒューストン地域で開始したと発表した。

このサービスは、日本のソフトバンクグループも出資している米無人配送車ベンチャー「ニューロ(Nuro)」との共同プログラム。4月17日に、両社が合同で最初の無人運転車によるテスト配送を実施した。配送車は無人だが、テスト期間はロボット技術者が後続車で監視する。



ニューロの共同創業者デーブ・ファーガソンは「我々が続けてきた無人配送実験が功を奏して、実際にサービスを提供し、地域コミュニティに変化をもたらすところまできた」と語った。「ヒューストンの顧客に食料品を早く安全に提供できることに興奮している」

ヒューストンでのサービスには、ニューロの無人運転技術を搭載したトヨタ「プリウス」が使われる。来年には、ニューロ特注の無人配送バンが導入される。

「無人車」が標準になる

今のところ無人運転車による配送サービスを提供しているのは市内南西部の1店舗だけだが、間もなく2店舗目が加わる。

この共同事業が成功すれば、ますます競争が激化する自動運転ビジネスでニューロは先頭に立つことができる。クローガーは全米で2800店舗を展開している他、別ブランドでも店舗を経営する全米最大規模のスーパー・チェーンだ。

クローガーが、オンラインでの注文から数時間のうちに同地域内での無人配送ができるようになれば、高級食料品スーパー「ホールフーズ」を買収して食料品の即日配達サービスを手がけるアマゾンや、オンライン宅配サービス大手の「ピーポッド」「フレッシュダイレクト」などにも対抗できる。

食料品の配達から小包配送、貨物運搬、そしてタクシーに至るまで、自動運転車の使用はある時点で特別ではなく標準になるだろうと、一般には考えられている。問題はそれがいつの時点になるか、またそれによってどんな弊害が生じるか、という点だ。



現在、複数の企業が無人運転技術の実用化を目指してしのぎを削っているが、安全面の欠点も明らかになっている。

昨年3月、配車アプリ大手のウーバーはアリゾナ州で自動運転車の実験中に、歩行者をはねて死亡させる事故を起こした。報道によると、車は事故当時、時速64キロ前後で走行し、安全のために運転席には運転手も配置されていた。

アリゾナ州の検察当局は今年3月、ウーバーを正式に起訴するのに十分な証拠はないと発表した。

アリゾナの事故は、自動運転車が関係した事故で歩行者が死亡した初めてのケースとみられている。事故を受けて、ウーバーは自動運転車の試験走行を中止したが、昨年12月に「速度を落として、より安全性を確保した環境で」試験走行を再開した。

半数以上が自動運転に「不安」

米調査会社ギャラップが昨年2月に3000人以上の成人を対象に実施した意識調査では、59%が自動運転車に乗ることに不安を感じ、54%が自動運転車を使いたくないと感じていることがわかった。さらに自動運転のトラックと並走した場合に不安を感じる回答者は69%と高い割合だった。

米国電気電子技術者協会(IEEE)の会員、アントニオ・エスピンガルデイロ博士(ロボット工学)は、「実際問題として、自動運転車はすでに数百万マイルの距離を大きな問題なく走行している」と言う。

「信頼構築のためには、自動運転が成功した実例が必要だ。自動運転が十分に活用されれば、もっと簡単で安全で速く、そしてラクに移動ができるようになる」

IEEEの幹部会員で、英ウルスター大学のケビン・カラン教授(サイバーセキュリティ)は、「ロボットが単純作業を引き受け、人々がサイバースペースに夢中になっている世界では、手動運転のほうが『ばかげたこと』とみなされるようになるだろう」と語る。

しかし、いつそうなるかは想像の域を出ない。

「例えば飲酒したドライバーや低年齢、高年齢、身体障害がある人など、法的に運転ができない人たちに対して、自動運転車が新たな可能性を開くことは注目すべきポイントだ」



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ニューロの無人運転車




ハンナ・プレストン

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