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米朝対話で狭まる北朝鮮の選択肢

ニューズウィーク日本版 2019年4月20日 15時0分

<最高人民会議で読み解く北朝鮮の「次の一手」――金正恩は長期戦覚悟で外交解決を目指すつもりだ>

今年2月末、ベトナムの首都ハノイでの第2回米朝首脳会談が合意ゼロに終わったことで、北朝鮮は対米戦略の練り直しを迫られていた。沈黙を保ってきた金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は、4月に入ってから「現地指導」を再開した。元山葛麻海岸観光地区や平安南道陽徳郡温泉観光地区の建設現場を再訪して、軍人たちが経済建設に参加するよう指示を出している。

その後、朝鮮労働党政治局拡大会議や中央委員会全員会議の開催を経て、4月11日と12日の両日、最高人民会議第14期第1回会議が開催された。毎年1回、しかも1日開催が定例化してきた北朝鮮国会で2日間の開催となったのは、実に19年ぶりのことである。幹部人事が刷新され世代交代が進み、金正恩は国家の最高ポストである国務委員長に再び推戴された。

今回の最高人民会議ではほかにもいくつかの注目すべき変化が見られた。その1つは、初めて施政演説が行われたことだ。金正恩によるこの長文演説は、全国民が学習すべきとされる「新年の辞」に並んで重要なものとなろう。強硬な表現も随所に見られるが、北朝鮮国内における「お言葉」の重みを鑑みれば、米朝対話の開始前には考えられないほど抑制的なものである。米朝間で折り合いがつかず実質的な非核化の進展が見られない現状は遺憾であるが、対話の積み重ねは結果として北朝鮮の選択肢を狭めていく効果を生んでいると言える。

「世界の趨勢」を重視する金正恩は、新たなスタイルの採用を好む傾向がある。しかし、施政演説の内容は自主路線や自力更生を強調するものとなっており、祖父の故・金日成(キム・イルソン)演説を彷彿させる。

「米国」を26回も連呼し「敵対視政策」や経済制裁への率直な不満をぶちまけているものの、「トランプ大統領との個人的関係」は素晴らしいとして、「年末までは忍耐心を持って米国の勇気ある決断を待つ」と語った。北朝鮮としては、長期戦を覚悟の上で交渉を継続する意思を示したことになる。

韓国に対しては、「『仲裁者』『促進者』の振る舞いをするのではなく、民族の一員として気を確かに持て」と強く出ている。韓国保守層に対する不満を表明する一方で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領への名指し批判はなく、今後に余地を残している。

指導部人事は外交重視

また昨年4月に提示された経済建設に集中するという方向性が再確認され、対外経済の活性化にも触れられた。国防力が「自主権守護の強力な宝剣」であるとしつつも、核・ミサイル開発に回帰する姿勢は示されていない。核については「(米国による)長期間の核脅威を核で終息させた」と過去形で表現するなど、微妙なレトリックが用いられている。経済制裁には「自立・自力」で突破するとしながらも、「対話と協議を通じた問題の解決を重視」するとも明言している。



国務委員会のメンバーは金正恩委員長、崔龍海(チェ・リョン)ヘ 第1副委員長、さらに朴奉珠(パク・ポンジュ)副委員長(党副委員長、前内閣総理)のほか、11名の国務委員で構成された。新たに内閣総理に任命された金才龍(キム・ジェリョン)のほか、前外相の李洙墉(リ・スヨン)最高人民会議外交委員長や金英哲(キム・ヨンチョル)党統一戦線部長ら4人の党副委員長、さらに軍総政治局長、人民武力相、国家保衛相、人民保安相と共に李容浩(リ ・ヨンホ)外相と崔善姫(チェ・ソニ)外務第1次官が加わった。次官クラスが入るのは初めてのことで、今般の人事には外交重視の姿勢がにじみ出ている。

最高人民会議常任委員長は金永南(キム・ヨンナム)(91)から崔龍海(69)に交代となった。新任の崔龍海は、今回新設された国務委員会第1副委員長の職にも就いた。つまり、「最高領導者」である国務委員長と、対外的に国家元首の役割を担っていたとされる常任委員長の上下関係が形式的にも明示されたことになる。金正恩の名が代議員名簿に載らなかったことなどから、最高指導者の職名はそのままであっても、その性格や権限に変化が生じていると言える。

<本誌2019年04月23日号掲載>



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礒﨑敦仁(慶應義塾大学准教授)

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