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福岡県新宮町で小学校校長が道路に勝手に引いた「停止線」のナゾ - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年4月23日 15時0分

<校長が児童の安全を図ったのであれば、あらためて停止線の位置を検討することが必要なのでは>

舗装道路には色々なペイントが施されることがあります。例えば、アメリカでは学校のあるゾーンでは、25マイル(時速40キロ)の厳格な速度規制がされるだけでなく、ドライバーの注意を喚起するために、路上に色々なペイントをすることがあります。

例えば、この4月20日に一斉に報じられたところでは、フロリダ州のマイアミ都市圏にあるドーラル市で、学校の前の道路の停止線のところに「SCHOOL」という白いペイントでの表示をしようとしたところ、業者が間違って「SCOHOL」とペイントしてしまったというニュースがありました。

あきれた話ですが、真面目に怒った人は少ないようで、「ヒラリアス(抱腹絶倒)」なネタという扱いでした。地元のローカルテレビがアップした動画は多数の閲覧数を獲得しましたし、その結果として全国ニュースにもなったりしました。もっとも、地元では余りの反響に驚いてすぐに補修工事がされたようです。

一方で、舗装道路のペイント問題ということでは、福岡県で起きた「校長先生が勝手に停止線を引いた」というニュースには笑えないものがあります。

福岡県新宮町にある小学校前の県道に「停止線のような白線」を勝手に引いたとして、その校長先生を県警が昨年7月に書類送検していたというのです。校長先生は8月1日に簡裁で罰金4万円の略式命令を受けたそうです。

西日本新聞によれば、校長は「県道に出る(進入路は)下り坂で、学校関係者の車や子どもの飛び出しなども考えられ、安全を第一に考えた」ようです。

調べてみたのですが、現場は、小学校から坂を下ってきた道と県道の三叉路で、県道の交差点が赤信号の時、三叉路を越えたところまで信号待ちの車が列を作ることがあるようです。ということは、校長先生の主張はこの信号待ちの列に坂を降りてきた学校関係者の車が衝突することを恐れて、県道に勝手に停止線を引いたというストーリーのようです。

しかし、このニュースには3つ不自然なところがあります。

1つ目は、校長先生の動機です。いくら下り坂で、スリップする危険があるとしても、学校関係者の車が信号待ちの列に衝突するので危険、それだけの理由で勝手に停止線を引いたりするでしょうか? 子供達が県道に飛び出したり、信号待ちの車の行列を横切る危険を考えての行動、という説明の方に説得力があります。



2つ目は、当初の報道では「この問題で学校と公安委では意見の相違があった」という記述があったのが、ほとんどの電子版ニュースでは削除されているという問題です。つまり、学校は停止線を三叉路より手前に引く(つまり校長が勝手にペイントした地点)ことを主張したが公安委員会が拒否したという事情があるようです。

この点については、現場の写真を見れば理由が浮かび上がってきます。現場の県道には、最近流行の「ハードカラー」と呼ばれるカラー舗装用材で、学校側の、つまり信号待ち行列のできる側の車線が全部赤く塗られていました。

この舗装材は、注意喚起のためのカラーリングに使用されるもので、耐久性や速乾性に優れた素材です。ですから、ラインとか帯であればまだしも、このように車線全体を塗布しますと面積も大きくなってかなり高額になります。公安委(警察)としては、予算を使ってカラーリングしたのに、さらに停止線を下げよという学校の要求を呑めば、その予算がムダになってしまうことから、学校側の主張を拒否した可能性があります。

3番目は、どうして半年以上過ぎた今回、4月に入ってから明るみに出たのかという問題です。一つの可能性は、3月までに公表されると校長人事に影響したからという事情です。仮に、上記のようなストーリー(児童の安全のため主張したが、断られた)があるのなら、校長先生の人事に影響させるのはさすがに可哀相なので、4月になってから公表したという可能性です。ちなみに、学校と公安委の確執についての報道が「消された」のは、問題の幕引きをしたいからかもしれません。

もし児童の安全が関わっているとすれば、あらためて停止線の位置を検討することが必要と思われます。仮に児童の飛び出しや、信号待ち渋滞中の横断という危険があるのであれば、高額なカラー舗装はあまり意味がないように思うからです。

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