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観光先進国(G7)を標榜した韓国の宿泊施設がぞくぞく競売に

ニューズウィーク日本版 2019年4月25日 18時50分

<冬季五輪が繰り広げられた江原道平昌郡や済州島の宿泊施設の次々と競売されるが、落札件数は3分の1にとどまっている......>

韓国では世界のトップレベルと肩を並べることを先進国首脳会議の参加国になぞらえて「G7」と呼ぶことがある。深刻な通貨危機に見舞われたいわゆるIMF経済危機の出口が見えはじめた2000年、韓国政府は先進国に比肩する技術を育てる試みを開始し、「G7プロジェクト」と名付けた。

観光業はG7プロジェクトには含まれていなかったが、かつて韓国は「観光G7」を標榜した。数年前、訪韓外国人は急激な右肩上がりを記録して、2012年には1000万人を突破。日本よりも1年早い1000万人達成だった。当時は平昌が冬季五輪の開催地に選ばれた直後でもあり、観戦者や報道陣を受け入れる宿泊施設の不足と交通アクセスが課題として浮上していた。

ところが、この観光業が奈落に落ちていると韓国の毎日経済新聞は伝えている。

平昌五輪向けの過剰供給と交通網の整備が逆効果に

特に冬季五輪が繰り広げられた江原道平昌郡の観光業が危機的な状況に陥っている。開会式や閉会式の会場となったメインスタジアムから7キロしか離れていないリーバリーファミリーホテルが競売にかけられ、12回の流札の末に15億2000万ウォンで落札された。鑑定価格90億375万ウォンのおよそ6分の1だが応札者は1人しかいなかった。

2017年1月から3月期に137件だった韓国全土の宿泊施設の競売件数は、2019年同期に237件まで増加し、落札件数は70件にとどまっている。

江原道は国内宿泊観光客の訪問先として、10年以上に渡って1位にランキングされてきた。また、中央政府機関の地方移転政策で、韓国観光公社の移転先として江原道原州市が選ばれた。江原道と五輪会場の近くに移転した観光公社は宿泊施設の誘致に取り組み、国内外からの観光誘客に力を注いだ。こうしていったんは平昌や江陵を訪問する人が増えて建設されたホテルは観光需要を享受したが、五輪が終わるとメインスタジアムが撤去され、観光バブルは終焉を迎えた。

五輪に合わせて鉄道や道路が整備され利便性が増したことが、逆に宿泊施設の経営に不利益をもたらすことになった。平昌や江陵は、ソウルから鉄道やバスで3時間以上かかっていて、観光客は宿泊施設を利用していたが、五輪に合わせて高速道路網と高速鉄道KTXが整備され、首都圏から日帰りできるエリアが広がったのだ。平昌郡のあるペンションは、利用者の大半を一日の短期滞在が占めるようになったという。

済州島のホテルも入札されるが応札者が現れず

中国人旅行者で活況に沸いた済州島も観光スラム化が進んでいる。済州島西帰浦市のビスタケイホテルワールドカップホテルは、鑑定価格3億5370万ウォンの半額以下の1億2131万ウォンで入札にかけられたが、応札者が現れずに3度流札している。



韓国を訪問する中国人のうち、済州島のみを訪れる観光客はビザが免除されている。2012年頃から中国人旅行者が急増し、中国マネーの投資が相次いだ。島は爆買いの中国人で溢れ、ホテルは高騰、国内旅行者は居場所がなくなった。

済州島はリゾート目的で訪れる人が多い。ゆったりと観光を楽しみたい国内観光客や中国人以外の外国人は日本に向かう傾向が起きていたが、クルーズ船や飛行機でやってくる中国人で笑いが止まらない済州の観光業界が顧みることはなかった。

だが、2017年に中国政府が渡韓を制限すると観光客は激減。済州島を訪れる観光客は中国人一辺倒で、日本に流れたそのほかの観光客が戻ってくることはない。

済州観光公社は、2018年に40億9800万ウォンの純損失を計上している。600億ウォンをかけて整備された西帰浦港は完成以来、1年8ヶ月に渡って開店休業となり、2億3000万ウォンの維持費が文字通り藻屑と消えた。

「東京」後はどうなるのか......

五輪が終わると五輪バブルは終焉する。中国人観光客の急増もバブル的なものだったが、これらの一時の好況で無分別な投資を行なった。韓国は一度ブームが起きると官民あげて右へならえの一辺倒になり、ブームの終焉とともに苦しい状況に追い込まれる傾向がある。

一過性のブームでホテルは供給過剰となり、そしてAirbnb(エアビーアンドビー)などの共有宿泊施設も増加した。宿題施設の競売はますます増えると業界は予測するが、長期的な視点に立った将来像が見えないなか、応札者が現れることはないだろう。熱い熱狂を迎えつつある東京も他山の石としたいところだ。


佐々木和義

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