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世界屈指のプロゲーマー梅原大吾「人生にリセットボタンはない」の転機【世界が尊敬する日本人】

ニューズウィーク日本版 2019年5月4日 11時45分

<17歳で世界チャンピオンになった日本人初のプロゲーマー。自己変革のためボクシングジムに通い、一度は介護の現場にも身を置いたからこそ、今の自分があるという。だがそんな梅原は、eスポーツの盛り上がりに対し、どこか達観している......>



※4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が尊敬する日本人100人」特集。お笑い芸人からノーベル賞学者まで、誰もが知るスターから知られざる「その道の達人」まで――。文化と言葉の壁を越えて輝く天才・異才・奇才100人を取り上げる特集を、10年ぶりに組みました。渡辺直美、梅原大吾、伊藤比呂美、川島良彰、若宮正子、イチロー、蒼井そら、石上純也、野沢雅子、藤田嗣治......。いま注目すべき100人を選んでいます。


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全く理解されない、褒められもしない──。17歳で世界チャンピオンになっても、周囲の反応は微妙だった。何より、栄冠に輝いたはずの自身の中に、どこかぎこちない思いが漂っていた。「どうせゲームでしょ」という、発せられない自他の声が常に聞こえていたからだ。

「そんな気苦労はもうなくなった」と言う梅原大吾(37)は今、日本人初のプロゲーマー、世界屈指のプレーヤーとして君臨する。「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」としてギネスに認定され、ひと握りのプレーヤーに限られるスポンサー支援を4社から受けている。

十分過ぎる称賛を受けるに至ったのは、ゲームと同じくらい取り組んだことがあったからだ。「一生引きずりそうな問題は早い段階で解決しようと心掛けてきた」という梅原は、何より他人の目を人一倍気にする性格を変えることに心血を注いだ。「そんな性格のために多くのチャンスをふいにしてきたから」

自己変革のためには普段やらないことに挑み視野を広げるしかないと、ボクシングジムにも通った。そして、人目を気にして「仮の自分」を生きるのをやめる決定的な要因になったのは、ゲームの世界を一度離れて身を置いた介護の現場だった。「人生はいずれ終わるという厳然たる事実を実感した。人生にリセットボタンはないと悟った」。梅原は最大の弱点を打破した。

プロになって9年、当時の梅原が予想しなかったほどeスポーツは隆盛期を迎えている。昨年にスポーツのアジア競技大会で初めて競技に採用され、オリンピック競技に推す声もある。

スポーツに発展する余地

ただ梅原は、「大きな金が動くから巨大イベントに組み込もうとする流れは自然なこと」と、どこか達観している。その上で、国際スポーツ大会とゲームの親和性について、こう語る。

「少なくとも僕が戦っている格闘ゲームは、まだスポーツの域に達していない」。彼の主戦場である『ストリートファイター』では、プレーヤーが複数のキャラクターから1つを選んで戦う。それぞれのキャラは強さが異なり、絶対的な公平性はない。「勝つことだけに執着して強いキャラを操れば盛り上がるというほど単純ではない」

さまざまなキャラが独特の動きをすることでバリエーションが生まれ、そこに観衆が引き付けられることで成立している興行的側面がある。「スポーツ競技としてシビアにやれば、そうした土台が崩壊する」



それ以外のゲームについても、スポーツとしての未熟さを指摘する。「例えば反射神経が圧倒的な勝敗要因であり、若手でなければ勝てないようなゲームは底が浅い」。経験や戦略など、複数の要素が反映されやすい仕組みが必要だと、梅原は言う。

「eスポーツともてはやされているが『下駄』を履かせてもらっているのが実情。それでも、スポーツと呼ぶにふさわしい世界に発展する余地もある。僕も新たな手法に挑んでいきたい」

Daigo Umehara
梅原大吾
●プロゲーマー

<2019年4月30日/5月7日号掲載>

※この記事は「世界が尊敬する日本人100人」特集より。詳しくは本誌をご覧ください。

「世界が尊敬する日本人100人:2019」より
●羽生結弦が「最も偉大な男子フィギュア選手」である理由
●夢破れて31歳で日本を出た男が、中国でカリスマ教師になった:笈川幸司
●遠藤謙、義足開発で起業し、目下の目標は「東京パラ金メダル」
●中国人が蒼井そらを愛しているのはセクシー女優だから──だけではない

※過去の「世界が尊敬する日本人」特集で取り上げた人の一部は、本ウェブサイトのニューストピックス「世界が尊敬する日本人」に掲載しています。


前川祐補(本誌記者)

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