<絶滅したと思われていた野生動物でも、熱帯のジャングルに身を潜めて生き延びていたものもいる。だが、彼らが危機に瀕していることに変わりはない>
インドネシアのジャワ島にだけ生息する絶滅危惧種のジャワヒョウが、自然保護団体がジャングルに設置した隠しカメラによって10頭確認された。
インドネシアでは同じく絶滅危惧種のジャワサイの死骸が3月21日に西ジャワで発見され、残る個体数が67頭に減少しているなど、森林開発、違法伐採、密猟などで野生動物が絶滅の危機に瀕していることが問題になっており、国を挙げての保護対策が急務となっている。
自然保護団体「コンサベーション・インターナショナル(CI)」インドネシア支部と「西ジャワ自然資源保全センター(BBKSDA)」などによる合同チームは西ジャワ州グントゥールのパパンダヤン保護林でジャングル内に隠しカメラを仕掛けて調査を行った。その結果、10頭のジャワヒョウ(オス3頭、メス7頭)の生息を確認した、と地元紙「ジャカルタポスト」が5月4日に報じた。
CIとBBKSDAは2016〜18年の2年間、ジャングルに60個のカメラを設置して午前6時から2時間、午後10時から2時間撮影し、記録を続けた。
その結果を詳細に分析した結果、83点の画像の中から10頭のジャワヒョウの存在が確認されたという。CIインドネシアのアントン・アリオ氏は発表された声明の中で「画像の分析から各個体のサイズ、雄雌の判別、ヒョウ柄の模様のパターンを記録することができた」と成果を強調した。
さらにアントン氏はジャワヒョウの生息が観測された地域には「ジャワギボン、ジャワ灰色リーフモンキー、ジャワスローロリス」などの希少種も生息しており、貴重な動物の宝庫であると指摘。そうした希少動物の生息環境が「違法な森林伐採により脅かされている」と環境破壊に警告を発している。
ジャワスローロリスは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで近い将来に野生種が絶滅する危惧がある「近絶滅種」に指定されている。
ジャワトラはすでに絶滅
インドネシアのジャワ島には固有の動物が確認されており、かつては同じ大型の食肉目ネコ科であるジャワトラも生息が確認されていたが、1976年の目撃情報を最後に生存が確認されておらず1980年代に絶滅したといわれている。
ところが2017年、ジャワ島西部バンテン州にあるウジュン・クロン国立公園内で職員が撮影した動画に生きているジャワトラらしき動物が写っていた。同国立公園にはジャワヒョウも生息していることから「絶滅したとみられているジャワトラか、個体数が激減しているジャワヒョウか」とニュースになったが、映像からはどちらなのかは断定できずに調査が続けられたが、確定的なことは現在もわかっていない。
このほかに約100年前に絶滅したとされる動物にジャワゾウがある。最近、ボルネオ島のボルネオコビトゾウがそのジャワゾウの子孫ではないかとの研究結果が世界動物基金(WWF)によって報告されている。
Javan Leopards spotted by camera traps in Guntur - Papandayan Conservation Forest Management Unit of West Java. #JavanLeopard#conservation #biodiversity#Indonesia(Photo by @conservationID)https://t.co/ZtF4lcaVpf pic.twitter.com/AjNUL5cuvj— Fidelis Green Blog (@satriastanti) May 2, 2019 自然保護団体の2年がかりの調査で撮影されたジャワヒョウ
2017年には4頭の生息が確認されたジャワヒョウ
インドネシア森林環境省は2017年2月に西ジャワ州スカブミ南方のチケプ野生動物保護区で今回と同様、ジャングル内の隠しカメラによる調査で4頭のジャワヒョウの生息を確認したと発表したことがある。
当時のAFPの報道によると、寄せられた足跡と糞の情報に基づいて2016年7月から8月にかけての28日間、隠しカメラで撮影したところ、「黄色に黒い斑点模様のジャワヒョウ3頭」と「真っ黒なジャワヒョウ1頭」を確認したという。
また周辺などで発見した足跡や木に残された爪痕などの詳細な分析調査から、さらに別に8頭のジャワヒョウが同保護区に生息している可能性が高いことも分かったという。
同地区は不法伐採などでジャワヒョウ絶滅も予想されていただっただけに、この個体生息確認は朗報となった。CIインドネシアなどの分析ではジャワヒョウの野生種の生息数はジャワ島全体で約500頭とみられ、その大半はジャワ島西部の森林地帯にいる可能性が高いという。
このようにジャワ島では固有の野生動物が絶滅の危機に瀕していたり、あるいはすでに絶滅している例が多くある。
「動物より人が優先」で、動物保護や自然環境保全などが後回しあるいは忘れられることも多いインドネシアだが、「一度絶滅した動物は二度と戻らない」ことを肝に銘じて、自然・環境問題についての対策を少しでも政治主導で上げる努力をジョコ・ウィドド大統領に期待したい。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
インドネシアのユニークな野生動物たち
ブタに似たイノシシ科の動物バビルサ Nat Geo WILD / YouTube
巨大なはさみでヤシの実を取って食べるヤシガニ Nat Geo WILD / YouTube
小さくて一見かわいいメガネザルは実はジャングルのプレデター Nat Geo WILD / YouTube
インドネシアのジャワ島にだけ生息する絶滅危惧種のジャワヒョウが、自然保護団体がジャングルに設置した隠しカメラによって10頭確認された。
インドネシアでは同じく絶滅危惧種のジャワサイの死骸が3月21日に西ジャワで発見され、残る個体数が67頭に減少しているなど、森林開発、違法伐採、密猟などで野生動物が絶滅の危機に瀕していることが問題になっており、国を挙げての保護対策が急務となっている。
自然保護団体「コンサベーション・インターナショナル(CI)」インドネシア支部と「西ジャワ自然資源保全センター(BBKSDA)」などによる合同チームは西ジャワ州グントゥールのパパンダヤン保護林でジャングル内に隠しカメラを仕掛けて調査を行った。その結果、10頭のジャワヒョウ(オス3頭、メス7頭)の生息を確認した、と地元紙「ジャカルタポスト」が5月4日に報じた。
CIとBBKSDAは2016〜18年の2年間、ジャングルに60個のカメラを設置して午前6時から2時間、午後10時から2時間撮影し、記録を続けた。
その結果を詳細に分析した結果、83点の画像の中から10頭のジャワヒョウの存在が確認されたという。CIインドネシアのアントン・アリオ氏は発表された声明の中で「画像の分析から各個体のサイズ、雄雌の判別、ヒョウ柄の模様のパターンを記録することができた」と成果を強調した。
さらにアントン氏はジャワヒョウの生息が観測された地域には「ジャワギボン、ジャワ灰色リーフモンキー、ジャワスローロリス」などの希少種も生息しており、貴重な動物の宝庫であると指摘。そうした希少動物の生息環境が「違法な森林伐採により脅かされている」と環境破壊に警告を発している。
ジャワスローロリスは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで近い将来に野生種が絶滅する危惧がある「近絶滅種」に指定されている。
ジャワトラはすでに絶滅
インドネシアのジャワ島には固有の動物が確認されており、かつては同じ大型の食肉目ネコ科であるジャワトラも生息が確認されていたが、1976年の目撃情報を最後に生存が確認されておらず1980年代に絶滅したといわれている。
ところが2017年、ジャワ島西部バンテン州にあるウジュン・クロン国立公園内で職員が撮影した動画に生きているジャワトラらしき動物が写っていた。同国立公園にはジャワヒョウも生息していることから「絶滅したとみられているジャワトラか、個体数が激減しているジャワヒョウか」とニュースになったが、映像からはどちらなのかは断定できずに調査が続けられたが、確定的なことは現在もわかっていない。
このほかに約100年前に絶滅したとされる動物にジャワゾウがある。最近、ボルネオ島のボルネオコビトゾウがそのジャワゾウの子孫ではないかとの研究結果が世界動物基金(WWF)によって報告されている。
Javan Leopards spotted by camera traps in Guntur - Papandayan Conservation Forest Management Unit of West Java. #JavanLeopard#conservation #biodiversity#Indonesia(Photo by @conservationID)https://t.co/ZtF4lcaVpf pic.twitter.com/AjNUL5cuvj— Fidelis Green Blog (@satriastanti) May 2, 2019 自然保護団体の2年がかりの調査で撮影されたジャワヒョウ
2017年には4頭の生息が確認されたジャワヒョウ
インドネシア森林環境省は2017年2月に西ジャワ州スカブミ南方のチケプ野生動物保護区で今回と同様、ジャングル内の隠しカメラによる調査で4頭のジャワヒョウの生息を確認したと発表したことがある。
当時のAFPの報道によると、寄せられた足跡と糞の情報に基づいて2016年7月から8月にかけての28日間、隠しカメラで撮影したところ、「黄色に黒い斑点模様のジャワヒョウ3頭」と「真っ黒なジャワヒョウ1頭」を確認したという。
また周辺などで発見した足跡や木に残された爪痕などの詳細な分析調査から、さらに別に8頭のジャワヒョウが同保護区に生息している可能性が高いことも分かったという。
同地区は不法伐採などでジャワヒョウ絶滅も予想されていただっただけに、この個体生息確認は朗報となった。CIインドネシアなどの分析ではジャワヒョウの野生種の生息数はジャワ島全体で約500頭とみられ、その大半はジャワ島西部の森林地帯にいる可能性が高いという。
このようにジャワ島では固有の野生動物が絶滅の危機に瀕していたり、あるいはすでに絶滅している例が多くある。
「動物より人が優先」で、動物保護や自然環境保全などが後回しあるいは忘れられることも多いインドネシアだが、「一度絶滅した動物は二度と戻らない」ことを肝に銘じて、自然・環境問題についての対策を少しでも政治主導で上げる努力をジョコ・ウィドド大統領に期待したい。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
インドネシアのユニークな野生動物たち
ブタに似たイノシシ科の動物バビルサ Nat Geo WILD / YouTube
巨大なはさみでヤシの実を取って食べるヤシガニ Nat Geo WILD / YouTube
小さくて一見かわいいメガネザルは実はジャングルのプレデター Nat Geo WILD / YouTube