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スペイン版トランプのポピュリスト旋風が吹く

ニューズウィーク日本版 2019年5月9日 16時40分

<総選挙で国政に進出した極右政党ボックスはトランプ陣営の幹部とも交流があった>

4月28日に投票が行われたスペイン総選挙では、中道左派の与党・社会労働党が123議席(改選前は84議席)を獲得し、第1党の座を守った。一方、二大政党の1つで中道右派の国民党は134議席から66議席へと大幅に議席を減らした。

そして驚異の躍進を果たしたのが新興の極右政党ボックス(声)だ。国政初進出なのに、みごと24議席を獲得した。「スペインを再び偉大な国に」という同党のモットーは、党首サンティアゴ・アバスカルのポスターにも、党のビデオにも登場する。そのスローガンだけではなく、この新興政党のポピュリズムはアメリカのトランプ大統領およびヨーロッパ各国の極右政党とかなり共通点が多い。

17年10月、カタルーニャ自治州の独立宣言に反対する運動として、ボックスはスペインの政界に躍り出た。今でも「カタルーニャ独立反対」の主張はボックスの支持層に最も訴えやすい要素となっている。

だが党の成長とともに、ボックスは世界的なポピュリズムの流れに共通するイデオロギーを取り込んだ政党に変身した。銃の所有と使用権の拡大を支持し、キリスト教徒以外の移民に反対し、フェミニズム運動を攻撃し、「グローバリスト」や既成の「エリート」を拒絶するといった調子だ。

トランプ流ポピュリズムとの相関は思想にとどまらない。トランプの大統領選勝利の立役者たるスティーブ・バノン元大統領首席戦略官兼上級顧問は、17年にボックスと連絡を取り始めた。ボックス側は当初、ソーシャルメディアの利用について指南を仰ぐため、バノンに接触を図ったとされる。

スペインの領土保全を訴えるだけでなく、ボックスはトランプの国境政策をより直接的な方法で模倣してもいる。例えばボックスのハビエル・オルテガ・スミス書記長は昨年、アフリカ大陸にあるスペインの飛び地とモロッコとの境界にコンクリートの「壁」を建てろと要求した(現在は高さ6メートルの鉄条網が張られたフェンスがある)。

保守派が一段と右傾化

ボックスはまた、中南米のポピュリズム政党と同様に男性優位主義を打ち出し、女性を家庭内暴力から守ることを目的とした「ジェンダー暴力防止法」の廃止を公約に掲げている。

経済政策では、ボックスはフランスのマリーヌ・ルペン的な政府介入主義よりも米共和党や英保守党の自由市場主義に非常に近い。減税、特に法人税の引き下げを支持し、社会福祉プログラム(特に移民への支援策)を削減し、公教育よりも私教育を優先すると主張している。



ボックスのナショナリスト的姿勢は、トランプ的であると同時にスペイン独特でもある。国家の分断につながるとしてカタルーニャやバスクの分離独立派に対抗する一方、移民の受け入れやグローバル化に反対するときはスペイン伝統の保守的カトリック教徒の価値観を前面に打ち出す。

前者はスペイン独特の主張だが、後者はイスラム世界からキリスト教文明を守るという汎ヨーロッパ的な主張だ。

ボックスの影響は政界だけでなく社会にも浸透している。そして保守派の主流である国民党や保守派のコメンテーターは、結果として一段と右寄りの論調にシフトしている。

ボックスはスペインの保守主義をトランプ的な問題提起で引き継ごうとしている。今回の選挙の結果はその方向への重要な一歩と言えそうだ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年5月14日号掲載>


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パブロ・パルド

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