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自衛隊の多国籍軍参加へ──シナイ半島派遣はその第一歩

ニューズウィーク日本版 2019年5月10日 14時50分

<令和フィーバーの裏でひっそりと決まった自衛隊員のシナイ半島派遣が意味するもの>

日本はどうやら新しい時代を迎えたようだ。といっても、新天皇の即位とは関係ない。

日本政府は4月26日、安全保障の分野で小さな、だが重要な一歩を踏み出した。戦後初めて、自衛隊員を国連以外の多国籍軍に参加させるために海外に派遣したのだ。

新元号「令和」発表の翌日、政府はエジプトのシナイ半島で活動する「多国籍軍・監視団(MFO)」に陸上自衛隊の幹部隊員2人を送る計画を閣議決定した。MFOは1979年のエジプト・イスラエル間の平和条約成立後、82年から停戦監視任務に当たっている。新元号とは違い、この決定は日本国内でも国際的にも大きな注目を集めることはなかった。

それはそうだ。2人の陸自隊員を中東に送り、非戦闘部門の司令部で活動させる──それ自体は何の変哲もないことのように見える。派遣される2人は連絡調整の任に当たり、拳銃と小銃を携行する。

それに日本は88年以来、MFOに総額約2500万ドルの資金援助を行ってきた。PKO(平和維持活動)参加も目新しいことではない。92年のPKO協力法成立後、日本は国連PKOへの参加を解禁。これまでに自衛隊を9回派遣している。

国連PKO参加に当たっては、紛争当事者間の停戦合意、武器使用は自身の生命保護のためなど最小限にとどめる、といった「5原則」を満たしていることが条件とされた。その後01年に法改正で、「自己の管理下にある」自衛隊員以外のNGOスタッフなどを守るための武器使用も可能になった。

それから10年以上、日本はこの原則を維持してきたが、15年に安全保障関連法が成立。国内避難民などの保護、国連職員の救助なども必要に応じて可能になった。武器の使用範囲も自衛隊員などの自己防御に加え、宿営地の「共同防護」や「駆け付け警護」も可能になった。

国連以外の活動の端緒に

ただし日本はまだ、実際にそのような活動を行っていない。国連PKOの一環として南スーダンに自衛隊を派遣したが、安全保障関連法が想定するような事態は起きないまま、政府は司令部の自衛隊員4人を残して部隊の撤退を決定。そのため現在まで、国連PKOで日本の不在が目立つ状況が続いてきた。

しかし、シナイ半島の任務はこれまでとは違う。15年のPKO協力法改正を含む安全保障関連法の成立で、国連PKO以外の「国際連携平和安全活動」への参加が可能になった自衛隊の隊員が、同法に基づき実際に派遣される初めての機会だ。17年の南スーダンからの撤退以来、初の自衛隊の海外派遣であるだけでなく、日本政府が15年の法改正に基づき、自衛隊の派遣基準を初めて世界に示したささやかな(だが無視できない)一歩でもある。



自衛隊がいきなり多国籍軍と肩を並べ、独裁政権の打倒やテロリスト根絶のために戦うようになるわけではない。それでも、今回の決定は大きな前進だ。

日本の安全保障政策は、少しずつ段階的に変わる。今回の派遣がうまくいけば、平和と安定のために自衛隊が多国籍軍と共に貢献を期待されている多数の国際的活動の最初の例になるかもしれない。

「国連の管理下」という制約から解き放たれた日本は、もっと幅広い海外での任務にもっと自由に自衛隊を派遣できるようになるはずだ。今はささやかな動きにしか見えないかもしれないが、日本は安全保障でも新時代に突入した可能性がある。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年5月14日号掲載>

※5月14日号(5月8日発売)は「日本の皇室 世界の王室」特集。民主主義国の君主として伝統を守りつつ、時代の変化にも柔軟に対応する皇室と王室の新たな役割とは何か――。世界各国の王室を図解で解説し、カネ事情や在位期間のランキングも掲載。日本の皇室からイギリス、ブータン、オランダ、デンマーク王室の最新事情まで、21世紀の君主論を特集しました。



ジェフリー・ホーナン(米ランド研究所)

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