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いま、凡人でも起業して成功できる──その理由

ニューズウィーク日本版 2019年5月10日 17時20分

<日本の経済力が低下しており、将来的にも悲観的な状況だが、実は起業をしたい人には追い風が吹いている。そして、起業家になるのに天才である必要はない>

約30 年前の世界の時価総額ランキングを見ると、上位20社のうち14社に日本の企業が名を連ねている。だが現在は、日本の企業は1社も入っていない(下図参照)。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)を筆頭に、アメリカや中国のテクノロジー企業が上位を独占している。

小原聖誉・著『凡人起業』(CCCメディアハウス)48ページより

日本企業が得意だったものづくりが、一つひとつ手渡ししていくビジネスだとすれば、デジタルは大量の人に即流通させることができるビジネスといえる。今後はAI(人工知能)やIoTなど、ITを活用した革新がますます進んでいくだろう。

そうなると、現状の売上規模の大小ではなく、将来期待値が反映される仕組みの株価においてはIT企業のほうが大きくなっていくのは当然のことだ。日本語という言語のユーザー数の少なさから置いてけぼりになっている日本企業と比べ、グローバルIT企業の時価総額が圧倒的に大きくなっている。

未来を考えるともう少し悲惨だ。例えばベトナムの平均年齢は20代で、ほかのアジア諸国も同様だ。一方、日本は人口減少トレンドに入り、出生率も減り、どんどん平均年齢が高くなっている。

さまざまな指標があるなかで、人口の指標はほとんどズレがなく、未来が正確に予測されるといわれている。平均年齢が若い国との差が今から顕著になり始めているが、この差は今後さらに広がっていく(下図参照)。

小原聖誉・著『凡人起業』(CCCメディアハウス)50ページより

日本語圏の外で勝負できるIT企業が育っていないうえ、人口減少により国力が落ちていく日本。国力が落ちれば日本語圏内でのビジネスが縮小するため、小さなパイを奪い合うことになるだろう。これからは既存のパイを取り合うビジネスよりも、新しいパイをつくるようなビジネスをやっていかなければならない。

それなのに、日本の大企業では、新しいパイをつくる事業が手掛けづらいという構造がスタンダードである。先日、新規事業を考えている大企業の人たちから話を聞いたが、「人口減少も日本国内市場縮小も分かっているから、将来を見据えた新規事業を立ち上げなければならないが、失敗を織り込まなければならないし、売り上げが1パーセントあるかないかの新規事業に対して熱量を掛けることが難しい」といった現状のようだ。



飲食店ではなく、ITビジネスで起業すべき

そんな経済力が低下している日本で、個々のビジネスパーソンはどうすればいいのだろう。

多くの日本企業で、かつて一般的だった「定年まで同じ会社で働く」という就労システムもすでに崩壊しつつある。副業を認める企業も出てきた。つまり、自分で食べていく方法を身に着けたほうが生き残りやすいということだ。

起業してビジネスがつくれるようになれば、高価値な人材となる。大企業もそのような人材や組織を必要としており、それらの高価値な人材や組織が増えれば、日本の生産性も上がっていくだろう。人口が減少しつつあっても、1人あたりの生産性が上がれば国力は維持できる。

特にIT関係の起業は、資金も少なくて済む。スマホなどのインフラによって、多くのユーザーに流通コストなしでサービスを提供することができるからで、起業家にとっては勝負がしやすい。しかも今は、新規事業に投資したい企業やベンチャーキャピタル、エンジェル投資家が増加しており(下図参照)、実は起業したい人には追い風が吹いているのだ。

小原聖誉・著『凡人起業』(CCCメディアハウス)57ページより

安く生産でき、流通コストがなく、資金も利用できるため、「起業」という選択肢が現実的に取りやすくなった。起業か大企業への就職かを損益分岐で考えた場合、起業したほうがアドバンテージが出るかもしれないという、端境期が今だといえる。

例えば飲食店であれば、勝負どころは毎日だろうし、頑張ったとしてもリターンはあまり変わらない。もし急激な成長を求めようとしたら、フランチャイズを一気に増やすくらいしか方法はないだろう。

一方、ITビジネスは、大きく投下すれば大きく伸びるという特徴がある。例えば、メルカリやグノシーは、スマホが伸びているときにスマホ向けのサービスを企画開発し、タイミングよくテレビCMに予算を投下し、ユーザーを短期間で一気に100万人、200万人と獲得していった。

急激に伸びていくと、社員数が少なくても売上基盤を大きくできる。そこがITビジネスの利点だ。

自分の経験を生かし、コツコツやるのが「凡人起業」

そうはいっても、起業なんて誰にでもできることではない。「起業家」と聞けば、東大や早大、あるいはハーバード・ビジネススクールでMBAを取得したような、やり手や天才をイメージしてしまう――そんな人は少なくないだろう。

でも心配することはない。「日東駒専」と称される、ごく平均的な大学を卒業した(しかも、経済学部という平凡な学部を、ファストフード店でのアルバイトに打ち込み過ぎて留年した)凡人である筆者が起業できたのだから間違いない。



筆者は大学在学中に起業を意識し始めたが、実際にスマホゲームのマーケティング支援事業で起業したのはその15年後。創業の3年後に大手通信グループにバイアウトし、現在はIT起業の支援・投資活動を行っている。いわば「凡人起業」の伝道師だ。

「凡人起業」とはひと言でいえば、自分の経験を生かし、自分の土地勘のある業界で起業すること。その業界内で、どの会社がどんなことで困っていそうかは、それまでの経験で当たりがつくはずだ。つまり、それまでコツコツやってきたことが「わらしべ長者」式になって起業するというのが「凡人起業」で、起業後のどのフェーズでもコツコツやるということは変わらない。

先述したように、(飲食店などではなく)ITビジネスこそが「凡人起業」に最も向いている。起業へのハードルは低くなってきつつあり、起業したあとも大企業などにイグジットしやすくなっているのだ。誰もが「わらしべ長者」の権利を持っていて、そのことに多くの人が気づいているのだが行動に至らない、というのが現状である。

実際に起業するにせよしないにせよ、次につながる行動をしていくというマインドセットがこれからは重要になる。

だからまず、自分は何をしてきて何ができるのか、冷静に客観的事実を集めてみよう。ミスなく働いているのなら、身に着いた知見や自分にしか見えないもの、自分ならできることが見えるはずだ。自分が発揮できる価値を、幅広い人に提供してゆく、というのが「凡人起業」のあり方だ。

やりたいことではなく、負けないものを見つける。負けない領域とは、競争がない領域である。そんな負けない領域を見つけて、まずはその領域の第一人者になること。

「凡人起業」の3原則は、

1.成長市場に参入する
2.その道のプロになる
3.仕事に集中する仕組みをつくる

だ。

そして自分の領域で第一人者になる具体的な方法が、以下に挙げる「凡人起業ドリブン」である。

【凡人起業ドリブン】
0:今いる会社の社長に起業の相談をする
1:競争を避ける
2:毎日継続できる、レベルの低いことをする
3:毎日継続せざる得ない養成ギブスをはめる
4:無料セミナーをし、資料をつくらざるを得ないよう追い込む
5:自分を信用していないからヒアリングを大切にする
6:誰も否定できないことを整理して先駆者感を出す
7:お金がないから広報に取り上げられる工夫をする
8:自分にはチャンスが少ないことを認識し、真剣に提案する
9:事業が進捗して追い風に乗ってから資金調達する
10:提案先の担当者の社内稟議の面倒さを解決する
11:社員に名前を売ってもらう。売れば売るほど営業が不要になる
12:ニッチでも No.1と言える領域を徹底的につくる。そこが伸びるとトップシェアの自分たちも伸びる

この「凡人起業ドリブン」はどんな業界においても、どんな人でも応用可能だ。



起業に興味がある人も、今は会社に勤めているはずだ。そして、会社でコツコツやってきたことは誰にでもあり、そうして積み重ねてきた知見をもとに自分が身を置く業界を見てみると、不便さや問題点、課題に思い当たるだろう。改善点があるということは、それに対するニーズがあるということ。それが起業のヒントになる。

つまり起業こそ、会社に埋没せずに凡人が生き残っていくための手段となりえるのである。

[筆者]
小原聖誉(おばら・まさしげ)
起業家・エンジェル投資家、StartPoint代表取締役。98 年、大学在学中に起業家のインターンに参加したことが「やがては自分も起業しよう」と考えるきっかけに。2013 年にAppBroadCast を創業し、スマホゲームのマーケティング支援事業を展開。徹底して凡人であることを前提に経営したことで、立ち上げたメディアは2 年で400万ダウンロードを超えた。創業3年目の2016 年、大手通信会社グループに同社をバイアウト。現在は自らの創業経験をもとにIT 起業の支援・投資活動を行っている。今年3月、『凡人起業――35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。』(CCCメディアハウス)を上梓。






小原聖誉

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