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アンネ・フランクの「ビキニ写真」でハーバード大学の風刺雑誌が謝罪

ニューズウィーク日本版 2019年5月16日 13時15分

<ビキニ姿の合成写真はホロコーストの犠牲者に対する侮辱で、反ユダヤ主義を勢いづけるものだと批判が殺到。歴史の知識もありユダヤ人差別に反対する筆者らになぜこんなことができたのか>

ハーバード大学の風刺雑誌「ハーバード・ランプーン」は、ホロコーストの犠牲者アンネ・フランクのビキニ姿の合成画像を掲載した判断について学生から批判の声が上がったことを受けて謝罪した。

問題の画像は、アンネ・フランクの顔と、ビキニ姿の胸の大きな女性の体をつなぎ合わせたもの。「アンネがホロコーストで命を落としていなかったら、こんな姿になっていただろう」と題したうえで、「ホロコーストが最悪な理由にこの写真を加えよ」というキャプションをつけている。

5月11日に同誌が発行されると、学生たちはソーシャルメディア上で強い不快感を表明。ハーバード・ランプーン側に説明を求める嘆願書が拡散された。ユダヤ系団体「名誉棄損防止連盟(ADL)」のニューイングランド支部も、この画像についてツイッターへの投稿で言及した。

ADLニューイングランド支部はこの投稿の中で、アンネ・フランクを性的な対象にした下品で不快なこの画像は「何も面白くない」と指摘。問題の画像は「彼女の記憶や何百万というホロコーストの犠牲者を侮辱する」ものだと批判し、集団虐殺を矮小化することは、反ユダヤ主義やホロコースト否定派を利することになると付け加えた。

ホロコーストの知識もある人がなぜ

ADLボストン支部のロバート・トレスタン事務局長はツイッターに、問題の画像は「恥ずべきものだし有害だ」と投稿。ユーモアと反ユダヤ主義の境界を踏み越えたとして、謝罪が必要だと主張した。

【参考記事】『アンネの日記』から明かされた「下ネタ」でアンネが伝えたかったこと

ハーバード大学の学生ジェイコブ・シュワルツもフェイスブックへの投稿で、同画像は「許容範囲を超えている」と主張。画像はホロコーストの問題を矮小化し、未成年の少女を性的な対象にし、彼女が殺された事実を軽視するものだと批判した。自らをユダヤ系だとするシュワルツは、この画像が「許容可能」とされるなら、もはや気持ちよくキャンパスライフを送れないと書いた。

「好意的に受け止めようとしたし、無知ゆえのことだと考えたい部分もあるが、どうしても理解できない」とシュワルツは書いた。「この画像をつくった人々は明らかにホロコーストについて十分な知識があり、ユダヤ人が耐えた悲劇について基本的な理解があった。それでも彼らは、これが許されるだけでなく面白いと判断したのだ」

500人の署名を集めることを目標にした嘆願書には、2日間で300を超える署名が集まった。同嘆願書は公の謝罪を求めると共に、問題のコンテンツが発行されるに至った経緯や、再発防止策の説明を要求している。



ハーバード・ランプーン誌の共同代表であるニコラス・グランドリンとジャック・ストービッツ、および担当編集者のリアナ・スピロは、同誌のウェブサイトに共同声明文を発表。自分たちの行動に責任を取らなければならないことは理解していると認め、反ユダヤ主義を非難した。

「個人としても組織としても、問題の画像が作成され、掲載されるのを許した不注意について謝罪したい」と声明文は述べた。「私たちが引き起こした害について申し訳なく思っている」

3人はまた、同誌の発行プロセスには「十分な編集上の監視」が欠けていたとし、今後はコンテンツの作成に「これまで以上に慎重に」取り組むとも述べた。

オランダのアンネ・フランク・センターは、ハーバード・ランプーン誌がこうした編集基準を導入したことについて「希望の兆し」だとしたものの、対処が1週間遅かったとも指摘。問題の画像は「不快で悪趣味」で「ユーモアでも何でもない」と評した。

ドイツで生まれたアンネ・フランクは、10代だった第2次世界大戦の最中、家族と共にアムステルダムにある家の別館を隠れ家とし、そこで2年間を過ごした。その後、何者かの裏切りで、家族と隠れ家にいたところをナチスに見つかり身柄を拘束された。そして15歳という若さで、ベルゲン・ベルゼン強制収容所で人生の幕を閉じた。

だがその死後も、彼女のレガシーは日記という形で受け継がれている。ナチスに見つかるまでの生活をつづった彼女の日記は、その死後に発見され、1947年に出版された。

(翻訳:森美歩)


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ジェニー・フィンク

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