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絶滅危機から「ハリネズミ戦争」での肥満まで──欧州ハリネズミの受難

ニューズウィーク日本版 2019年5月17日 16時55分

<英国でかつてから愛されているハリネズミが半減している。そこでクイーンのブライアン・メイが支援活動を始めたり、都市部では逆に餌付けされ餌のやりすぎが問題になったりしている......>

20年弱で半減、「手を打たないと絶滅」

英国をはじめとする欧州でハリネズミの受難が続いている。住むところや餌が減ったために個体数が激減し、絶滅の危機に瀕している。英国ではさらに、希少動物と化してしまったハリネズミがひょっこり自分に家の軒先に現れたことに喜んだ住人に大量に餌付けされ、ハリネズミたちは肥満に苦しむようになってしまった。

ドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレは、ハリネズミがドイツのバイエルン地方で、絶滅が危惧される哺乳類動物の警告リストに加えられたと伝えている。同局はまた、英国での状況も深刻で、1950年代には3000万匹いたと考えられていたハリネズミは、2019年現在では100万匹にまで減ったとしている。個体数減少のスピードは近年特に速く、2000年以降は半減したという。

英国のニュース専門チャンネル、スカイニュースは、英国のハリネズミは2008年以降、個体数が農村部で半減、都市部で約30%以上減少したとし、「何かしら手を打たないと、ハリネズミが永遠に消えてしまう」と訴えている。

スカイニュースによると、ハリネズミが農村部を中心に激減している主な理由は、生息地が減ったこと、餌になる昆虫の幼虫やナメクジ、ミミズの数が減っていること、道路でひき殺されること(年間10万匹がこれに該当する)、アナグマやキツネによる捕食、などだ。

またドイチェ・ヴェレは、大規模農業が盛んになり、ハリネズミの住みかとなる雑木林や生垣、木が伐採されてしまっていることも挙げている。農薬の使用で、前述のハリネズミの餌となる生物が死んでしまっていること、壁やフェンスがあちこちにでき、ハリネズミが移動して繁殖するのを妨げていることなども原因だと指摘する。

庭にやってきたハリネズミ、厚遇で肥満に

そんなハリネズミだが英国では相変わらず愛されており、激減しているハリネズミをなんとか救おうという慈善活動も活発に行われている。ロックバンド、クイーンのブライアン・メイさんも、ハリネズミの窮地をなんとかしようと奮闘している1人だ。サリー州の自宅に巨大な救助センター「アメイジング・グレイス」を立ち上げ、弱ったハリネズミを迎え入れてリハビリテーションを行い、元気になったら野生に戻す、という活動をしている。



自宅の庭にやってきたハリネズミを手厚く迎え入れるのは何もメイさんだけではない。英国の一般家庭でも、庭にひょっこりやってきたハリネズミを迎え入れ、もてなしすぎて逆に肥満に至らせてしまう、という問題が浮上している。

前述のアメイジング・グレイスをメイさんと共同で立ち上げたアン・ブラマーさんが「ハリネズミ戦争」と呼ぶ現象だ。ブラマーさんが英ザ・タイムズ紙にした説明によると、せっかく来てくれたハリネズミをよその家の庭に行かせたくない、また我が家の庭に来てほしい、という思いから餌を与えすぎる人が多いのだと言う。

農村部では餌の激減が個体数減少の問題点だが、都市部においては餌のやりすぎが問題だとブラマーさんは説明する。そして常に餌がもらえる状態になると、ハリネズミの様子が変わってきてしまう。肥満になり、体に生えているハリが薄くなり、冬眠のパターンも変わってしまうのだ。タイムズ紙によると、通常は冬眠しているはずの冬季にもハリネズミの赤ちゃんの姿が確認されているという。

とはいえブラマーさんは、ハリネズミに餌や水をあげるのは大切だとも念を押す。英国ハリネズミ保護協会のフェイ・ヴァス氏もこれに同意。タイムズ紙に対し、全国的には餌のやり過ぎよりも餌の不足の方が心配されていると話し、「餌と水を与えるのは良いことです」と強調している。ちなみにブラマーさんは、ハリネズミが自宅の庭に来たらキャットフードと水でもてなすことをお勧めしている。



Project Amazing Grace : A Hedgehog Friendly Village




松丸さとみ

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