Infoseek 楽天

メイの有力後継候補ジョンソンはヤバい?「合意なき離脱」率25%に

ニューズウィーク日本版 2019年5月24日 16時30分

<メイが遂に辞任して、ブレグジット強硬派のジョンソン前外相が次期首相になれば、イギリスはますます厄介なことになる可能性が高い>

ブレグジットをめぐる混乱でテリーザ・メイ英首相の政治生命はほぼ終わったようにみえる。メイ辞任後の後継候補は、首相就任を生涯の野望としてきたボリス・ジョンソン前外相だ。ドナルド・トランプ米大統領とも仲がいいことで知られる。

昨年7月にメイのEU離脱協定案に反対して外相を辞任したジョンソンは、保守党の中では最有力の次期首相候補で、ブックメーカー(賭け屋)でも一番人気だ。上流階級出身でロンドン市長の経験もある。変わり者で親しみやすく、イギリスの独自性を体現する政治家だが、それだけにEUに対する恨みは強く、「合意なき離脱」も辞さない強硬派だ。

ジョンソンが次期首相として浮上したことを受けて、米証券JPモルガンは5月21日、「合意なき離脱」の確率を15%から25%へ引き上げた。

批判勢力からすれば、ジョンソンは恥知らずで他人に流されやすく、失言まみれで権力欲が強いだけの日和見主義者だ。トランプにとっては、本人が昨年7月のイギリス訪問の際に何度も強調したように、「良い英首相になる」友人だが。

<参考記事>ボリス・ジョンソン英外相の嘆かわしい失言癖

5月23日から投票が始まった欧州議会選では、保守党は惨敗すると予想されている。EU残留を支持する有権者も、EU離脱を支持する有権者も、他党へ逃げてしまったのだ。

<参考記事>【欧州議会選】英国の2大政党は大敗か?──新党「ブレグジット党」は10万人の支持獲得

「ブレグジット党」が躍進

保守党と労働党というイギリスの2大政党から支持をごっそり奪い取ったのは、ポピュリスト政治家ナイジェル・ファラージが今年1月に結成した「ブレグジット党」だ。より強硬なブレグジットを掲げ、生温いブレグジット案に不満な有権者の支持を集めた(労働党は、ブレグジットに対する賛否をあいまいにして支持を失った)。

欧州議会選に先立って調査会社イプソスモリが実施した世論調査によると、支持率がいちばん高かったのは35%のブレグジット党で、自由民主党が20%、労働党が15%、緑の党が10%、保守党が9%だった。

欧州議会選で、もしブレグジット党が大勝すれば、欧州議会でイギリスの最大勢力となる。ファラージの目標は、英議会と保守党に圧力をかけて、イギリスをできるだけ早くEUから離脱させることだ。

メイの離脱案は3度にわたって議会で否決され、期限がきてもブレグジットを果たせないまま先延ばしになっている。最新のスケジュールでも今年10月31日までに離脱案が可決しなければ、イギリスはEUとの協定なしの「合意なき離脱」に陥ることになる。



EU側は、メイの離脱案が残留以外では最善の策だと考えている。EU加盟国ではないが緊密な同盟関係にあるノルウェーやスイスと同じような関係を保つ、いわゆる「ソフトブレグジット」だ。

だがイギリスの残留派は、メイの離脱案は2016年の国民投票で決定したブレグジットよりもさらに踏み込んだ「ハードブレグジット」だと主張する。

5月22日には、メイ政権幹部のアンドレア・レッドサム下院院内総務が、メイの対応を批判して辞任した。レッドサムは、メイの離脱案ではイギリスは完全には主権を回復できず、EUに縛られたままになってしまう、と言ったという。

政権幹部の辞任はまだ続くかもしれない。5月21日にメイが発表した離脱案の修正案には突然「2度目の国民投票」という項目が表れ、これに対して閣僚が激怒、メイは窮地に陥った。議会を懐柔するために追加した項目が裏目に出てしまったのだ。

保守党議員からメイに対する辞任の圧力も高まっている。多くの保守党議員は熱心なブレグジット推進派で、メイの離脱案は「手ぬるい」と反対している。ブレグジットを実現するためには、経済的、政治的リスクを伴ったとしても「合意なき離脱」を進めるべきと考えるジョンソンのような議員もいる。

メイが辞任すれば、野党からは総選挙を前倒しで実施するよう相当な圧力がかかるだろう。総選挙が実施されれば、ブレグジットの実現はさらに遅れるか、または完全に頓挫する可能性もある。

意見が割れて誰も譲歩しようとしないがために、イギリスにとってのまっとうな出口はどんどん狭まっているようだ。

<参考記事>英国民はそろそろEU離脱が「糞を磨く」のと同じことに気づくべきだ 強硬離脱派の大物閣僚2人辞任

シェーン・クロウチャー

この記事の関連ニュース