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今度は南シナ海で対中制裁呼びかけ──米上院

ニューズウィーク日本版 2019年5月24日 17時10分

<貿易や安全保障をめぐる米中対立の流れで、中国が実効支配してきた海も取り戻す?>

超党派の米上院議員グループが5月23日、南シナ海と東シナ海における中国政府の活動に関与した中国人や団体に対して、米国政府が制裁を科せるようにする法案を改めて提出した。

共和党のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)とトム・コットン上院議員(アーカンソー州)、および民主党のベン・カーディン上院議員(メリーランド州)が提出した「南シナ海・東シナ海制裁法案」は、中国に圧力をかけ、中国が領有権を主張する中国沖の海域の実効支配をやめさせることを目的としていると、香港紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」は伝えている。

この法案が成立すれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)の1つまたは複数の加盟国が領有権を主張する海域で「平和、安全保障、安定を脅かす行為」をした個人に対して、アメリカ国内にある金融資産の凍結、ビザの取り消しまたは申請却下といった制裁を科すことが、アメリカ政府に義務づけられることになる。

中国は南シナ海で領有権を主張しており、浅瀬や礁に軍事基地のネットワークを建設して実効支配している。だが、中国が領有権を主張する海域は、ベトナム、フィリピン、台湾、ブルネイ、マレーシアが主張する領海と重なり合っている。そうした国々はいずれもASEANの加盟国だ。この海域には豊かな漁場や重要な航路があるほか、豊富な天然資源が存在するとみられている。

「中国政府に責任をとらせる」

米インド太平洋軍司令官のフィリップ・デービッドソンによれば、中国の基地ネットワークは重武装であり、中国が「アメリカとの戦争を除くあらゆるシナリオで」同海域を支配していることを意味するという。

アメリカの軍艦や航空機は、問題の海域で「航行の自由」作戦や飛行作戦をたびたび実施してきた。その狙いは、中国政府に継続的に圧力をかけ、同海域は国際水域の一部であるとするアメリカ政府の見解を主張することにある。アメリカのこうした作戦を中国は、挑発的で地域の平和を脅かすものだと非難しているが、今回提出された法案は、そうした作戦をさらに拡大することも求めている。

ルビオは「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」に対し、「(この法案は)中国政府が実効支配する南シナ海の紛争海域において、不法かつ危険な軍事拠点化にアメリカや同盟国が対抗する取り組みを強化するためのものだ」と語った。

「この法案は、同海域をあらゆる国に開かれた自由な海域として保つという米国の約束を改めて表明するものだ。また、同海域で他国を脅し、威圧していることに関して中国政府に責任をとらせるためのものだ」とルビオは付け加えた。



同法案が成立すれば、米国務長官には、6カ月ごとに議会に報告書を提出することが義務づけられる。この報告書には、(中国政府の主張する領海を実効支配するための)人工島基地建設に協力した中国人や中国企業が列記される。

この法案は最初、2017年に提出されたが、採決には至らなかった。だが、現在の緊張した米中関係や、2年以上にわたる中国の南シナ海の軍事拠点化が、この法案に勢いを与える可能性がある。また、外交委員会の委員長も当時から交代し、中国の監視を在任中の重要事項に掲げるジェームズ・リッシュに引き継がれている。

ルビオの広報担当者によれば、ルビオは法案成立の可能性について「きわめて楽観的」だと言う。2017年の法案と比べて、文言はほとんど変更されないだろうとのことだ。

制裁に次ぐ制裁

同法案が成立すれば、米中関係はさらに悪化する可能性がある。ドナルド・トランプ大統領の中国に対する強硬姿勢は、トランプ政権の顕著な特徴のひとつになっており、軟化する兆候は見られない。

アメリカは5月10日、2000億ドル相当に上る中国からの輸入品に対する関税引き上げを発動。税率を10%から25%に引き上げた。さらにトランプはロバート・ライトハイザー米国通商代表に対し、今回の引き上げの対象にならなかった中国からのほぼすべての輸入品について、関税引き上げの手続きを進めるように指示した。この追加関税の対象となる中国製品は3000億ドル相当にのぼる。

それと同時に、中国のテック系大手ファーウェイにも圧力をかけている。アメリカ政府は、5Gにおけるファーウェイの突出した技術が、西洋諸国における将来の重要な通信ネットワークに中国政府が侵入する糸口を与える可能性があると懸念している。5月15日には、トランプがこの問題をめぐって国家非常事態を宣言し、ファーウェイをブラックリストに追加した。すべての米国企業とファーウェイとのビジネス関係を事実上禁止しようとする動きだ。

(翻訳:ガリレオ)


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デービッド・ブレナン

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