Infoseek 楽天

日米貿易交渉は参院選後と言うトランプ、日本の民主主義はバカにされているのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年5月28日 19時0分

<与党一強の日本政治の現状を見下しているようでもあるが、英米の民主主義もまた危機に瀕している>

今回のトランプ大統領の来日は、宮内庁の所轄する皇室外交の儀礼的には国賓待遇でしたが、内閣を中心に見てみると正規の共同声明が省略されたことで、首脳外交としては簡易なスタイルに終始したと言えます。

では、どうして共同声明が省略されたのかというと、おそらくは最重要の論点である日米の通商問題について「結論を急ぐと、安倍政権にとって7月の参院選は不利になる」という計算があったと思われます。

大統領は自ら「通商問題の協議は日本の選挙後」というツイートをしていますから、その計算は日米で共有されているようです。こうした言い方には、いかにもトランプ大統領らしい「本音丸出しの実利追求」がありますが、それ以前の問題として、このツイートは、どこかで日本の民主主義を「バカにしたような」印象を与えるのも事実です。

どういうことかと言うと、仮に通商交渉の方向性に「日本の譲歩」が含まれていたとします。そうした日本側にとって不利益な流れが、選挙前に明らかとなると、これは与党に不利になります。ですから、大統領は「選挙後」と言っているわけですが、これは与党に協力しようという姿勢であるだけでなく、「都合の悪いことは争点から外す」ということを、日本の政権与党とアメリカの政府が共謀して行なっていると言えなくもありません。

そう考えると、安倍政権とトランプ大統領は、日本の民主主義を軽視していると言われても仕方がありません。

しかし「与党には選挙に不利になるかもしれないので、通商協議は選挙後に」という発言は正直と言えば正直です。もっと腹黒い政治家であれば、あえてこんな発言はしないでしょう。

そして、あえてこんな「露悪的な発言」をしているというのは、政権の受け皿になるべき野党に統治能力がないことがアメリカにも理解されてしまっているという情けない事実が浮かび上がってきます。そう考えると、政権構想も統治能力もないままに場当たり的な政府批判を続ける野党こそに問題があり、日本の民主主義はそもそもバカにされても仕方のないレベルだとも言えます。



一方で、民主主義の危機ということでは、より深刻なのはイギリスです。EU離脱問題では民意も議会も分裂するなかで、国家としての合意形成能力が危機に瀕しているからです。

アメリカの場合は、政権担当能力のある二大政党が、小さな政府論か大きな政府論かという軸を中心に政策で競ってきましたが、そのアメリカの民主主義も迷走中です。

現時点では、ロシア疑惑に関する「ムラー報告書」が明らかにしたトランプ大統領の姿、つまり「自陣営の勝利のためには国益を毀損しても平気」な姿は、依然として中道から左の有権者を動揺させています。

ですが、政権の受け皿となるべき民主党では、党内の左右対立が激化しています。現時点では前副大統領のジョー・バイデン氏が先行していますが、彼とは水と油の存在である党内左派は50%以上の支持率を確保しており、このままではとてもトランプの再選を阻止するような戦闘態勢は組めそうもありません。アメリカの民主主義もまた、かなり苦しいレベルとなっています。

そう考えると、まだ日本の状況は「マシ」とも言えます。ですが今回は、共同声明が見送られたことで、「決定事項」の確認が難しいわけです。通商問題に加えて、対北朝鮮外交について、あるいは対イラン外交について、どのような協議がされているのか、また日本が取りうる選択肢は、それぞれ具体的に何があるのかは、もっと明らかにされなくてはなりません。

政府が必要に応じて情報公開し、またジャーナリズムや野党を含めて、実現可能、対応可能な選択肢を中心に意味のある議論が活発化すれば、日本の民主主義も機能している姿を見せることができるのではないでしょうか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。ご登録(無料)はこちらから=>>


この記事の関連ニュース