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北朝鮮のミサイル実験でトランプがボルトンを否定、その意味は

ニューズウィーク日本版 2019年5月30日 14時30分

<北朝鮮が制裁緩和より先に核兵器とミサイルを放棄する、という非現実的な期待にしがみつくボルトンに対し、トランプは対話の継続を選んだ。ボルトンら主戦論者は政権から排除すべきだ>

5月28日、アメリカの外交政策をめぐる政府内部の混乱に再び注目が集まった。北朝鮮のミサイル発射実験について、国務省がドナルド・トランプ大統領と異なる見解を示したのだ。

制裁緩和や朝鮮半島の非核化をめぐる米朝間の協議が行き詰まるなか、北朝鮮は5月上旬、2度にわたって短距離弾道ミサイルの発射実験を実施した。加えて9日に北朝鮮籍の貨物船が国連安保理の制裁に違反した疑いで米司法省に差し押さえられたことも、両国間の関係改善に水を差すこととなった。

米朝間の外交関係の「雪解け」は、トランプが最も誇る外交上の成果のひとつだ(具体的にどれだけのことが達成されたかについては議論の余地があるが)。しかし最近は協議が行き詰まり、両国間の舌戦が激しさを増しつつあった。それでもトランプは、自らの外交上の「成果」を脅かす可能性のあるものはすべて、断固無視する決意のようだ。

5月25~28日の日本訪問中、北朝鮮が直前に行ったミサイル発射実験について質問を受けると、トランプは「個人的には気にしていない」と発言。さらに、協議に進展がみられない状況にもかかわらず、北朝鮮問題に関する進展に「とても満足している」ともつけ加えた。

ボルトンも国務省もトランプの見解に異論

トランプはまた、2度のミサイル発射実験が、北朝鮮に対して「一切の核実験および弾道ミサイルの発射実験を禁じる」国連の決議に違反しているとは思わないとも発言した。「米国民は違反と考えるかもしれないが、私の考え方は違う」と。

この発言は、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を意識した発言にも思える。イランや北朝鮮をはじめ、アメリカと敵対する国への強硬姿勢で知られるボルトンは25日、北朝鮮が決議に違反したことは「明らかだ」と批判。トランプの日本到着に先立ち、東京で記者団に「国連安保理の決議は、いかなる弾道ミサイルの発射も禁じている」と説明していた。

日本の安倍晋三総理大臣も、ボルトンと同様の見解を示した。安倍は27日に実施したトランプとの共同会見で、北朝鮮によるミサイル発射は「極めて遺憾」で国連決議違反だと示唆した(一方のトランプはこの会見で同発射実験を重要視しない姿勢を示した)。

そして28日、米国務省がさらに事態を混乱させた。国務省はこの日の会見でトランプの主張に異論を唱え、北朝鮮の兵器開発の計画全てが国連決議に違反している」と示唆したのだ。



モーガン・オルタガス報道官は、国務省の立場を明確にするよう求められたことを受けて、こう語った。「北朝鮮による(大量破壊兵器)計画全体が、国連安保理の決議に違反していると考える。だがアメリカとしては、北朝鮮の大量破壊兵器開発計画を平和裏に終わらせるための話し合いに努めている」

北朝鮮の実験に対する同省の見解がトランプと同じかどうか、本誌は国務省に確認を求めていたが、迅速な回答はなかった。

米シンクタンク「センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト」の朝鮮半島専門家ハリー・カジアニスも、「北朝鮮が最近の短距離ミサイル発射実験によって、国連安保理の決議に違反したことは間違いない」と言う。「トランプと韓国大統領府は、これらの実験の重要性を否定しようとしている。北朝鮮との協議再開の可能性を残しておくことがその狙いだ」と彼は本誌に語った。

強硬なアプローチは愚かな戦略

カジアニスは、5月上旬の発射実験は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長にとって、自分を取り巻く軍や党指導部に対して、自らの決意を示すひとつの方法だったのだろうと指摘。北朝鮮との協議を続けていく上での真の障壁は、「制裁緩和に先立って、まずは北朝鮮が折れて核兵器とミサイルを放棄すべきだという、アメリカのきわめて非現実的な期待」だと示唆した。

これは、どの核保有国も同意しないであろう条件だ。「歴史を見れば分かることだ。そのような戦略は愚かで失敗する運命にあるし、両国が核戦争の瀬戸際までいった2017年の危険な日々に我々を引き戻すことになる」とカジアニスは警告した。

もしも本当に金との合意をまとめたいなら、トランプは好戦的な顧問たちを排除する必要があるかもしれない。「そうした動きによってのみ、トランプがやりたいと言っている『どぶさらい』が本当に可能になり、アメリカを戦争に導きかねない、中東や北朝鮮のような国への強硬なアプローチを縮小するプロセスに着手できる」とカジアニスは指摘している。

(翻訳:森美歩)


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デービッド・ブレナン

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