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『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』人類史を書き換える世界の創造

ニューズウィーク日本版 2019年5月30日 18時0分

<架空の古代から人類絶滅が迫る未来までを描く壮大な舞台>

スコット・チャンブリスはSF映画『スター・トレック』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』の世界観を、設定やデザインを統括するプロダクションデザイナーとして実現させた人物。その彼にとっても全く新しい挑戦だったのが『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(日本公開は5月31日)だ。なにしろ、人類の架空の過去から、怪獣が闊歩する未来へつながる1つの世界を丸ごと創造しなければならなかったのだから。

「そこにはどんな物語があるのか。その世界の特質は何か。それらを最も正確に、あるいは精緻に伝えるにはどうしたらいいか」。デザインを決めるときはこれらの問いを指標にすると、チャンブリスは語る。

本作では、登場する怪獣――予告映像の1つで芹沢猪四郎博士(渡辺謙)が話すところによれば、その数は「17で、まだ増える」――のデザインも率いた。各種の怪獣が覇権を競い合って暴れ回るのにふさわしい舞台を設定すること。それが、監督のマイケル・ドハティと共に取り組んだ課題だ。

「ゴジラを含めて、自然との間にあるバイオダイナミックな関係をそれぞれの怪獣で視覚化した」。循環型の有機農法を意味する「バイオダイナミック」という単語を使って、チャンブリスはそう説明する。「怪獣が持つ要素の全ては自然の一環だ」

本作のゴジラが放射熱線を吐く際に生物発光によって光るのも、噴火した火山から現れるラドンの翼の一部が常に燃えているのもそのためか。チャンブリスいわく「怪獣が本領を発揮する前に、その特質が内側から目に見える形で出現する」。

初のハリウッド版ゴジラ映画『GODZILLA』(98年)では、ゴジラの食習慣や変異の過程が過剰に説明されていた。それに対して『キング・オブ・モンスターズ』は、リアリティーだけを追求しても説得力は生まれないと心得ている。

「怪獣の造形に当たっては、現代の観客にとってほんの少し分かりやすくなるような特徴を与えた」と、チャンブリスは言う。「より説得力のあるものにするというより、今の時代に通じやすいものにするということだ」

モスラもキングギドラも

本作は東宝の『三大怪獣 地球最大の決戦』(64年)などに出てきたエフェクトのいくつかを徹底的に再現する。一例がゴジラの敵、キングギドラが放つ引力光線の描写だ。とはいえ新たな怪獣も登場させ、ルーツである日本の映画シリーズの枠を超えて怪獣の世界を拡大している。「既存の怪獣の起源に厚みを与えられるよう気を配った」



『キング・オブ・モンスターズ』が描くのは、バランスを崩した自然の姿だ。そこに秩序を取り戻すべく、あるいは混乱に付け込もうと古い神々がよみがえる。怪獣は荒れ狂う自然の象徴であり、本作での破壊のありさまは天災規模に達している。「巨大な嵐や地震が発生するが、それらはどれも怪獣が生み出している混乱の一部だ」

チャンブリスはオリジナルには登場しない怪獣も造形した MICHAEL BUCKNER/GETTY IMAGES

モスラは「本質的に自然と結び付いた怪獣」で「比喩的にも視覚的にも光を導く」と、チャンブリスは語る。一方、キングギドラは「ほかの怪獣も含めて、あらゆるものとあらゆる人を配下に置こう」とし、「破壊と支配のためにやって来る」。

ゴジラの造形はリブート版シリーズ第1作『GODZILLA ゴジラ』(14年)を継承した。かつて自分を崇拝した人間のためにバランスを取り戻そうと、暴れ回る役どころだ。

本作は、都市のように巨大で複雑に絡み合う生物群そのものを構築するばかりでなく、人類と怪獣の間の長く入り組んだ歴史にも踏み込んでいる。

ゴジラという怪獣はデザインの変遷をたどってきた。原点である54年の映画『ゴジラ』で、故・中島春雄(『キング・オブ・モンスターズ』の撮影現場には中島のサイン入りの写真が掲げられていた)が「着ぐるみ」で演じた姿から、『シン・ゴジラ』(16年)の形態を変え続けるゴジラへ――。だがこれまで、その過去や生息地がはっきりと描かれたことは一度もない。

本作には、ゴジラのすみかとして築かれた古代都市が登場する。そこにはゴジラをあがめ、世話をし、ゴジラに従う人々が暮らしていたが、神話的な災害によって都市は消失した。

自然と人類の歴史を書き換える離れ業によって、本作は来年公開予定の続編『ゴジラvsキングコング』の舞台をしっかり整えた。とはいえ、人類はもはや脇役だと思い込むのはまだ早い。巨大なロボット「メカゴジラ」で、人類が怪獣の脅威に立ち向かう筋書きも検討されている。

それでも『キング・オブ・モンスターズ』では、豪華俳優陣が演じる人間のキャラクターは必死に生き残ろうとしているだけという印象が強い。

「焦点はほとんど怪獣同士の戦いに当てている」と、チャンブリスは語る。「人間は物語の重要な位置を占めていないとも言える。彼らにできるのは(怪獣の戦いを)見守り、人類絶滅を避けようとすることだけだ」

<本誌2019年06月04日号掲載>


※6月4日号(5月28日発売)は「百田尚樹現象」特集。「モンスター」はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか。『永遠の0』『海賊とよばれた男』『殉愛』『日本国紀』――。ツイッターで炎上を繰り返す「右派の星」であるベストセラー作家の素顔に、ノンフィクションライターの石戸 諭が迫る。百田尚樹・見城 徹(幻冬舎社長)両氏の独占インタビューも。



アンドルー・ウェーレン

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