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互いの核実験を非難し合う米ロとともに、核軍拡が始まった

ニューズウィーク日本版 2019年5月31日 16時15分

<アメリカもロシアも、核実験を行ったことではおそらく五十歩百歩。曲がりなりにも機能してきたCTBT(包括的核実験禁止条約)が今度こそ骨抜きになる?>

アメリカ情報部門の高官は5月29日、ロシアが北極圏のへき地で極秘に核兵器の実験を行っている可能性が高いと述べ、核爆発を伴う全ての核実験を禁じた国際条約、包括的核実験禁止条約(CTBT)に違反して核戦力の増強を進めている可能性があると警告した。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、国防情報局(DIA)長官のロバート・アシュリー中将は29日、ワシントンにあるシンクタンク、ハドソン研究所でスピーチを行い、ロシアが北極圏のへき地にあるノバヤゼムリャ列島で、きわめて低出力の核実験を実施したと思われると語った。ノバヤゼムリャは、ソビエト連邦時代に核兵器の実験がしばしば行われた地だ。 

ロシアは2000年に包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准している。アシュリーの今回の発言は、アメリカが公式に、ロシアのCTBT違反を非難する初めてのケースだ(アメリカは先週、今年2月にアメリカは未臨界核実験を実施したと発表した。核爆発を伴わない実験なのでCTBT違反ではないとしている)。

アメリカは違反していない?

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、アメリカはCTBTを批准していないものの、1992年から核実験を実施していない。CTBTは批准国数が足りないため発効していないが、主要国は条約を順守することに同意しているとWSJは指摘している。

アシュリーはスピーチで、「ロシアはおそらく、『ゼロイールド(あらゆる規模の核実験を禁止する規定)』基準を順守していない」と述べた。「ロシアの実験は核兵器の能力を増強させるためのものだと思われる。アメリカは、ゼロイールド基準を守って増強は差し控えてきた」

アシュリーは、実験の規模についてそれ以上明らかにせず、こう言った。「低出力核実験では爆発の威力がきわめて低く抑えられることがあるが、核爆発である限りは条約に違反する」

ハドソン研究所で行われた会合ではほかの政府関係者もスピーチを行ったが、ロシアの実験内容や規模についての詳しい情報や、アメリカが実験を知り得た方法については述べられなかったとWSJは報じている。

国務省高官のトーマス・ディナノはロシアについて、「おそらくそういう実験を行ったと思われる」と述べた。また、国家安全保障会議(NSC)のティム・モリソンは、ロシアはゼロイールド基準を守らずに核能力を高めるための「行動」を起こした、と語った。



ロシア政府は、まだ正式な反応を見せていない。だが、在ウィーン国際機関ロシア政府代表部のミハイル・ウリヤーノフ大使は、ロシアは「1980年代末以降、自主的かつ一方的に核実験モラトリウム(一時停止)を確立し、固持している」と述べたと、ロシア国営タス通信は報じた。

ウリヤーノフは、アシュリーが発言を裏づける証拠を提示していないことに触れた上で、アメリカ政府は条約を批准さえしていないと指摘。そして「アメリカには、核実験再開の用意を整えた状態で実験場を維持すると述べた」と続けた。「そうした姿勢は、アメリカのモラトリウムは信頼できず、彼らはいつでもそれを放棄しうるという証拠だ」

ABCによれば、ロシア下院国防委員会のウラジーミル・シャマノフ委員長はインタファクス通信社に対し、アシュリーの発言について、「きわめて無責任な発言だ」と述べた。そして、「核実験は秘密裏に実施できるものではない」と語り、こうした発言は逆に「アメリカで、軍の専門性が全体的に崩壊していることを露呈している」のではないかとの考えを示唆した。

(翻訳:ガリレオ)


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デービッド・ブレナン

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