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資産形成を始めるなら若いほど有利──株と投信で資産防衛する方法

ニューズウィーク日本版 2019年6月10日 15時15分

<年金が実質的に目減りし、消費税は増税、退職金や終身雇用制度の存続も危うい。昭和・平成とは考え方を変えなければ資産は守れない>

初任給を受け取ったときに「学生時代のバイト代よりずっと多い!」と感じた人は少なくないだろう。かつて筆者もそう思った。給料やボーナスを何に使うか考えるのは楽しいが、ちょっと発想を変えて「遠い将来の自分」のために投資を始めてはいかがだろうか。

「投資に興味はあるけど、なんとなく怖い」とか「投資なんて自分には関係ない」と思っている若い世代にお届けする。

お金との付き合い方を真剣に考えよう

新社会人に限らず、人生の選択肢が多い若いうちはお金との付き合い方を変える良いタイミングだ。とはいえ、いきなり「投資を始めろ」といわれても、なぜそんなリスクを取る必要があるのかピンとこないかもしれない。理由はいくつかある。

まず、会社員や公務員が加入する厚生年金は実質的に目減りする可能性が高いこと。厚生労働省の試算では、現役世代の平均手取り収入に対する年金給付額(所得代替率という)は2014年度に62.7%だったが、2043年度(今から25年後頃)には50%程度に下がり、2050年度も同水準が続くとしている(図表1)。



物価の変動を加味した「実質的な購買力」は現在とあまり変わらないという見方もある。しかし、現役世代の手取り収入との差が今よりも広がるので、生活実感としては「国の年金は実質的に減る」と考えておいた方が無難だろう。

なお、読者の恐怖心を煽るつもりは全く無いので申し上げておくが、巷で耳にするような「国の年金が破綻する」という事態は基本的に想定する必要はない。破綻を防ぐ代わりに、実質的に目減りするように制度を変更したからだ。

預金では将来の備えにならない

長期的には緩やかな物価上昇(インフレ)を想定しておくことも必要だろう。食料やエネルギーの大半を輸入に頼る日本にとって、世界人口の爆発的な増加や新興国で中間層が増えている現実は、受給の逼迫(大げさに言えば食料などの奪い合い)による輸入価格の上昇を通じて、国内の物価上昇圧力となりうる。

物価がある程度上昇する場合、「リスクがある投資などしなくても、銀行に預金しておけば良い」という考えは否定される。たとえば、年率1%の物価上昇が続いた場合、現在1万円の物は30年後に約1万3500円になる(図表2)。



一方、銀行など(金利0.01%)に1万円を預け続けても30年後に受け取る利息(税引き後)は20円程度だ。将来に備えたつもりでも実質的な購買力は下がってしまう。ちなみに2018年の消費者物価(総合指数)は1.0%の上昇であった。

また、医療費や社会保険料などの国民負担は高齢化の進展で増加が見込まれるほか、将来的に消費税率が欧米並みの15%~20%に段階的に引き上がる可能性も否定できない。当然、その場合は企業の負担も増えるので、退職金や終身雇用制度の維持すら難しくなるかもしれない(事実、退職金も終身雇用の企業も減り始めている)。

1990年代初頭にバブル経済が崩壊すると、日本では長らく物価が上がらない状態と超低金利が続いた。物価が上がらないのであれば、たとえ利息が付かなくても現金や預金で蓄えるのが正解という考え方も成り立った。

ところが、既に状況は変わった。物価は緩やかに上昇し始めた一方で、超低金利は当面続く公算が大きい。金融政策を担う日本銀行は、物価が2%程度で安定的に上昇するまで超低金利政策を続ける構えだ。

日本だけではない。米国や欧州、中国に至るまで経済の成熟化と高齢化で成長鈍化が確実視される。昭和~平成の時代とは考え方を変えなければ、令和時代の現役世代は自分の資産を守れない。



株は長期的には値上がりが期待できる

よく「株や投資信託は怖い」という声を聞く。確かに、以前は株も投信も怖いものだったが、近年は個人が長期的な資産形成を始める環境が整ってきた。日本の株式市場はバブルの清算を終え、米国など海外の株や投信も購入しやすくなった。金融行政・金融業界も個人の資産形成を後押しする方向に舵を切った。

さらに、若い世代は老後まで数十年という時間がある。これが最大の武器だ。「時間を味方につける」とはどういう意味か。そもそも株式というのは(株式を組み入れいている多くの投資信託も同様)、短期的には値上がりと値下がりを繰り返すが、長期では値上がりが期待できる。

なぜなら、株式の適正価格(理論価格)は(1)自己資本(資本金や過去に稼いだ利益の蓄積など)と(2)将来の予想収益(現在価値に換算)の合計で決まる(図表1)。一般に企業は稼いだ利益の一部を自己資本に加算する。赤字が続かない限り長期的には自己資本が増えるので、株価も上昇するということだ。



「時間を味方につける」積立投資とは?大儲けは狙わないが、大損も避ける

それでも日本では「株は上がらない」というイメージが強いのはなぜか。最大の原因はバブルだ。1980年代のバブル期は株価が適正価格より高くなりすぎたため(ピーク時は適正価格の4倍くらい)、その調整に20年近くかかった。この20年間は株価が少し上がるとすぐに下がることを繰り返したため、「株は上がらない」というイメージを植え付けられたのだろう。

しかし、2010年頃にようやく調整を完了すると、その後のアベノミクスや世界的な景気回復による企業業績の改善を受けて、適正価格も実際の株価も上昇した。

その様子を示したのが図表2だ。日経平均ベースの自己資本は、アベノミクス前から趨勢的に増えたことが分かる。これが株価の下値メドとなり、2000年代初頭の世界同時株安、2008年のリーマンショック、その後の株価急落時も概ね自己資本と同じ水準で下げ止まった。

株価が自己資本に見合う水準まで下落すると、それ以上は株を売る投資家が減るからだ。実際、日本株も米国株もリーマンショック前の水準をとっくに回復している。



今後も景気循環や政治不安などで株価が乱高下する場面はあるだろうし、バブルもいつか起きるだろう。「時間を味方につける」とは、こうした一時的な株価乱高下の影響をならすことだ。換言すれば、バブルに踊ることもなければバブル崩壊を悲観することもしない。

積立投資とは、大儲けを放棄すると同時に大損も避けつつ、企業本来の長期的な価値創造の一部を享受することに他ならない。

日本は人口が減るのに、株価が上がるのはなぜ?

ところで、日本では人口減少と一層の高齢化が確実視される中で、なぜ日経平均が値上がりすると考えて良いのか不思議に思った読者もいるだろう。セミナー等でも同様の質問をよく受ける。その質問に答えよう。

まず、日本企業の多くは海外で稼ぐようになった。欧米などの先進国にとどまらず、アジアやアフリカなど新興国への進出も目覚ましい。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日本企業の海外売上高比率は2000年度に3割に満たなかったが、2017年度には6割程度に増えた。海外で稼いでいるのだから、国内の人口減少を理由に日本株市場の先行きを悲観するのは大間違いだ。

もうひとつ、日経平均の採用銘柄が定期的に入れ替わることも重要なポイントだ。日本経済新聞社が"各業種の代表選手"として採用銘柄を選ぶときに、株式市場で活発に取引されているかが重視される。その結果、衰退企業は自動的に日経平均から除外され、代わりに人気銘柄が補充される。

定期的なメンテナンスによってクオリティが維持される仕組みも、日経平均の長期的な上昇を支えている。



個別株か投資信託か

投資信託(投信)とは、複数の投資家から集めた資金を1つにまとめて、株式、国債、不動産などに投資するものだ。株式の場合、投資家1人の資金量には限界があるので、たくさんの企業の株を買うことは難しい。「絶対に値上がりする株」を選ぶことも難しい。

一方、投信のようにまとめて運用すれば、幅広い投資先に分散投資できる。1社あたりの投資額が小さくなるため、仮にある投資先企業の株価が急落しても、その影響が薄まる。たとえば、日経平均連動型の投信は225社に分散投資している。投信の値動きを日経平均に連動させるためで、実際の運用成績も日経平均とほぼぴったり一致している。

投資信託にはパッシブ型とアクティブ型がある

投信には大きく分けて2種類ある。ひとつは日経平均や米国のNYダウなどよく知られた株価指数に連動するように運用する投信で「パッシブ型」と呼ばれる。もうひとつは日経平均などを上回る運用成績を目指す「アクティブ型」だ。

それぞれに特徴(メリット、デメリット)があり、パッシブ型の主な特徴は「分かりやすさ」と「コストが低い」ことだ。たとえば日経平均連動型の投信は前述のように日経平均とほぼ同じ値動きをするので、自分の投資資金がどのように運用されているのかわかりやすい。

日経平均やNYダウはNHKニュースで1日に何度も報じられるし、新聞やインターネットで簡単に価格を調べることができる点もメリットだ。

一方、アクティブ型はアナリストの調査・分析などを基にプロの運用者(ファンドマネージャー)が有望な投資先を選ぶ。成功すればパッシブ型よりも高い利回りを得られるが、アテが外れてパッシブ型に負けてしまうこともある。

また、投信には主に2種類の費用が掛かる。購入時に支払う「販売手数料」と、投信を保有している間ずっと負担する「信託報酬」で、一般的にパッシブ型の方が両方とも安い。

以上をまとめると、パッシブ型はアナリスト等の人件費が不要な分、投資家が負担するコストも安いが、運用成果は良くも悪くも株価指数並みになる。アクティブ型は成功すればパッシブ型よりも高い運用成果を得られるが、相対的に高いコストを支払う必要がある。



2種類のコスパをチェックしよう

いざ投信を選ぶとなると誰でも迷うものだが、そこでチェックして欲しいのが投信の成果指標(KPI:Key Performance Indicator)だ。証券会社や銀行など投信販売会社の多くは、取り扱う主な投信について複数のKPIを開示し始めた。中でも重視して欲しいのは「(1)コストとリターンの関係」、「(2)リスクとリターンの関係」の2つのKPIだ。

これらのうち、(1)は投資家が支払った費用(販売手数料、信託報酬など)に対する投信のリターン(値上がり益や分配金の合計額)の大きさを、(2)は投信の値動きの大きさ(変動率)に対するリターンの大きさを表している。(1)は経済的負担に対するリターン、(2)は精神的負担(値動きが激しいほど精神的な負担も大きい)に対するリターンなので、いずれも「負担に対する見返りの度合い」、つまり"コスパ"だ。

まず「(1)コストとリターンの関係」で最も大事なポイントは、コストが高いからといってリターンも高いとは限らないことだ。図表2の左図のとおり、年間コストが2%超の投信55本のうち45本はリターンが年率10%未満だった。コストが1%未満の低コスト投信よりリターンが低かったものも少なくない。

一方、「(2)リスクとリターンの関係」では、高リスク投信ほどリターンも高い傾向があり、いわゆる"ハイリスク・ハイリターン"の関係がみられる。

もちろん過去のリターンが高いからといって将来も高リターンとは限らない。一方、リスクについては継続性がある(過去のリスクが高かった投信ほど、今後も相対的にリスクが高い傾向がある)。投信を選ぶ際は(1)よりも(2)のKPIを重視するとよいだろう。





積立投資は、いつ始めるのが吉か

まず、始める時期だが、今後は長期的に株価が上昇基調であることを前提条件として20年間でシミュレーションしてみた。株価は図表1のように上げ下げを繰り返し、20年間の平均騰落率は年率5%とした。

X氏は毎月1万円ずつ20年間、Y氏は10年後から毎月2万円ずつ10年間、積立投資をしたと仮定する。累計の投資額はどちらも240万円で同じだが、20年後の資産額はX氏が462万円、Y氏は361万円となった。実に101万円の差だ。

株価の動きは、前半10年間は上げ下げを繰り返しながらほぼ横ばい、Y氏が投資を始めた後半10年間に大きく値上がりしているので、「10年後に始めれば十分では?」と思うかもしれない。ところが20年後の資産額はX氏のほうが100万円以上多い。

なぜこれほどの違いになったのだろうか。もちろんシミュレーションの前提として「長期的に上昇する」と仮定していることもあるが、早くから積立投資を始めた威力が表れている。Y氏が投資を始める時点(10年後)を考えてみよう。X氏は10年後の時点で資産額が128万円ある。それまでの累計元本は120万円なので、投資で増えた金額は8万円に過ぎない。

しかし、Y氏が投資を始めるとき、X氏は128万円を一度に投資するのと全く同じ意味になる。そのため、10~20年後の上昇相場の恩恵がY氏より大きくなったのだ。

積立投資は節税などの観点から「早く始めたほうが有利」とされるが、このシミュレーション結果からは、利息が利息を生む"複利効果"をより大きく得る意味でも、早めに始めた方が有利なことが示唆される。

ただし、あくまで長期的な上昇相場を想定する場合だ。「株価は下落する」と考える人は投資しない方がいい。



まずは職場の年金制度を確認しよう

積立投資を実践する方法はいくつかある。銀行や証券会社の「積立投資サービス」のほかに、税制上の優遇措置を受けられる仕組みもある。利用可能な人は使うべきだ。それぞれの仕組みについては詳しく解説した本がたくさん出ているので、ここでは各制度の概要を説明しよう。

まず、会社員の人は自分の会社に「確定拠出年金制度」があるか確認しよう。これは退職時に受け取る年金額の一部を前倒しで受け取り、従業員自身が運用方法を選ぶものだ。定期預金など元本確保型のほか、投信など元本割れのリスクがある運用先を選ぶことができ、統計によると平均6割が元本確保型で運用されているとされる。

ここで注意して欲しいのが、既述のとおり、定期預金では物価上昇に負けてしまう可能性がある点だ。

それでも平均6割が「超低金利の運用先」を選択しているのは、「よく分からないから、とりあえず定期預金にしておこう」という人が多いからだろう。「元本割れしない」ことが遠い将来の自分にとって本当に安心安全か、本シリーズの読者は真剣に考えてみて欲しい。

投資しながら節税できる!?

公務員やフリーランス、自営業などの人は「個人型確定拠出年金制度(通称iDeCo;イデコ)」が利用可能だ。限度額の範囲内なら掛け金の全額が所得から控除されるので、投資(貯蓄)しながら節税もできる。

運用益が非課税であることや、受取時も税制優遇があるのは大きな魅力だろう。特に「職場の年金」が無い自営業やフリーランスの人は、検討してみてはいかがだろうか。

ただし、確定拠出年金は個人型であっても原則として60歳になるまで引き出すことができない。他にも金融機関によって口座管理費用が異なるなど注意点もあるので、始める前に金融機関のホームページや関連書籍などで理解を深めて欲しい。

また、2018年に始まった「つみたてNISA」は20歳以上なら誰でも利用でき、毎月100円から積立できる金融機関もある。学生のうちから少額でスタートしておき、社会人になって余裕ができたら増額するのもオススメだ。



*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。

[執筆者]
井出 真吾
ニッセイ基礎研究所
金融研究部チーフ株式ストラテジスト・
年金総合リサーチセンター兼任

井出 真吾(ニッセイ基礎研究所)

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