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ウイグル人活動家の母親を「人質」に取る、中国の卑劣な懐柔作戦

ニューズウィーク日本版 2019年6月4日 15時0分

<ウイグル系アメリカ人の抗議運動を封じるため母親を1日だけ釈放させた中国の思惑とは>

ウイグル族をはじめとするイスラム系少数民族を監視下に置き、強制収容所で「再教育」するなどの政策で批判を浴びている中国・新疆ウイグル自治区。収容所に送られた人は100万人超に上る。ウイグル族出身でアメリカ国籍を持つファーカット・ジャウダトの母もその1人で、1年3カ月の間、音信不通の状態が続いていた。

5月17日、アメリカ在住のジャウダトの元に母から国際電話が入った。「母の声が聞けてとてもうれしかった」と、彼は言う。母は「素晴らしい」収容施設で中国の法律を学んできたと語り、「帰国して会いに来て」ほしいと言った。だがこの誘いに乗って、あるいは脅されて帰国し、行方が分からなくなった人は大勢いる。

母はさらに、新疆ウイグル自治区での人権弾圧をめぐるジャウダトの抗議運動について語り始めた。「今すぐ活動をやめなさい。中国は強大で、ここでの生活は素晴らしいから」と言われたと、ジャウダトは明かす。「中国が母を利用して私を黙らせようとしている」

ジャウダトの母は電話の翌日、再び収容所に送還され、母と行動を共にしていた彼の祖母は足を骨折して入院したとされる。「5~6人の警官が母を監視し、母が私に電話して必要なことを話したかを確認していた」

米国務省の報道官は本誌に対し「母親を1日だけ釈放し、発言を控えるよう(息子を)説得させようとする行為は、この問題に関する中国の二枚舌を表している」と語った。

ジャウダトによれば、母が収容所に送られたのは18年2月6日。当時、彼は自治区での人権弾圧を批判する情報発信を強化しており、中国当局に目を付けられていたのは明らかだ。

米中貿易戦争の影響も?

ジャウダトは今年3月、在米の同胞らと共にポンペオ国務長官にも面会した。するとその週末に、母の身柄は収容所から刑務所に移され、おばとおじは懲役8年を言い渡された。どちらもジャウダトの活動への報復とみられる。

ジャウダトの母をめぐる一連の出来事は、世界各地に散らばるイスラム系少数民族の同胞からの批判をもみ消そうとする中国当局の意図を浮き彫りにしている。その一方で、中国の対応はアメリカとそれ以外の国で大きく異なっており、貿易戦争によるアメリカとの対立が、離れ離れになった家族の明暗を左右していることがうかがえる。



例えばオーストラリアの外務省によれば、3人のオーストラリア人が新疆ウイグル自治区で拘束された後、釈放されたという。「オーストラリアはこの問題について公に中国を批判することなく、水面下で個別のケースについて問い合わせをしている。中国はこうしたやり方を好む」と、ジャウダトは言う。

ただし中国の対応の違いには、表面的な外交関係だけでは説明できない理由もあると指摘する専門家もいる。「中国はアメリカおよび日本との間に現在進行形の問題を抱えている」と、英ニューカッスル大学のジョアン・スミス・フィンリー講師は言う。「両国は中国のナショナリズムをかき立てる存在だから、中国はアメリカから注文をつけられるたびに、抵抗している姿勢を見せたがる」

一方、ジャウダトはウイグル系アメリカ人らから失踪した親族の情報を集め、オーストラリアのような失踪者リストを作る予定だ。国務省とホワイトハウスが直接、問い合わせをしてくれることを祈って。

<本誌2019年6月11日号掲載>


※6月11日号(6月4日発売)は「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集。人民解放軍が人民を虐殺した悪夢から30年。アメリカに迫る大国となった中国は、これからどこへ向かうのか。独裁中国を待つ「落とし穴」をレポートする。



タラ・フランシス・チャン

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