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中国軍増強で、米軍は台湾や南シナ海に近づけなくなる

ニューズウィーク日本版 2019年6月7日 17時20分

<「中国が来る、中国が来る、中国が来る......もうこれ以上、待てない」!?>

軍事力でアメリカを抜き世界一になることを目標としてきた中国軍は、ここへきて技術的に米軍と同等の力を付けつつある――新たに発表された報告書がこう警告した。

シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」が発表したこの報告書は、ロバート・ワーク前米国防副長官とその元顧問グレッグ・グラントが作成した。それによれば、中国の台頭により、アメリカが長年にわたって享受してきた世界での軍事的優位性に終止符が打たれるかもしれない、と警告している。

「人民解放軍はこの20年、粘り強く米軍を追いかけてきた」と報告書は説明。「アメリカの好みの戦い方を研究し、その弱みにつけ込んで強みを相殺する戦略を探し求めてきた。とくに軍事技術面では、米軍は圧倒的に強かったからだ」

こうも付け加えた。「軍の運用システム面では既に対等な技術力を達成しつつあり、今後は軍事技術でも優位を目指す計画だ」

世界最先端の米軍を追い抜くために、中国は3段階から成る計画を立てているという。1990年代後半~2000年代の第1段階は、軍の近代化を成し遂げるまでの間、劣勢の立場からでも米軍に対抗する方法を考えた。

世界にも力を誇示できる

「精密誘導兵器やサイバー戦争の技術面で、アメリカとおおよそ対等な立場」を達成したところから始まるのが、第2段階。達成できれば中国は周辺地域に対する優位性を確立できる。中国軍が対艦ミサイルや極超音速ミサイルなどの専門兵器を導入すれば、南シナ海や台湾のような地域での戦争は、アメリカにとって「あまりに犠牲が多い、検討の対象外」の戦争になるという考えだという。

最後の第3段階は、中国軍が技術で既にアメリカを追い抜いた段階だ。そうなれば中国政府は、周辺地域のみならず世界の他の地域に対しても、その力を誇示することができる。

中国は産業スパイや技術スパイを使ってアメリカと対等な地位を確立し、米国防総省の弱みを探し、戦場で優位に立つための人工知能に巨額の投資を行ってきた、と報告書は指摘する。報告書はまた、中国が奇襲用のいわゆる「邪悪な能力(black capabilities)」を保持している、とも示唆した。



アメリカの軍当局者や議員たちはこれまでも、中国の軍事力の進歩について警鐘を鳴らしてきた。CNASの報告書は、中国政府が過去20年にわたって軍に巨額の投資を行ってきたと指摘する。1996年~2015年の間では、実質ベースで少なくとも620%増加しており、中国の軍事費はアメリカに次ぐ世界2位。

米統合参謀本部のポール・セルバ副議長は2018年、中国軍は2020年前半までにアメリカと対等な技術力を達成し、2030年代にはアメリカを凌ぐ技術力を達成する可能性があると警告した。議会の委託を受けて2018年末に発表された調査報告では、今やアメリカが中国との戦争に負ける可能性もあると警告した。

ドナルド・トランプ政権は2018年初頭に新たな国防戦略を策定し、ロシアや中国からの脅威に対応するために、これまでの対テロ作戦から「大国間競争」へと軸足を移すよう国防総省に指示した。米軍の優位性を維持するための技術革新を説いた2014年の米国防総省のイニシアチブ「第三の相殺戦略」に基づいた戦略だ。1950年代の戦術核、1970年代の精密誘導通常兵器に続くもので、伝統的な作戦領域で米軍が必ずしも優位ではなくなった場合に、無人機やステルス性兵器などテクノロジーで相殺しようというものだ。

ワーク前米国防副長官はワシントン・ポスト紙に対して、第三の相殺戦略は中国の脅威を明確にすべきだったと語った。「私なら『中国が来る、中国が来る、中国が来る』と声を上げていた。そして『もうこれ以上、待てない』と言っただろう」

(翻訳:森美歩)


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デービッド・ブレナン

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