Infoseek 楽天

トランプの対中貿易戦争は、共和党も民主党も暗に支持している - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年6月11日 18時40分

<メキシコへの追加関税の脅しは取り下げたトランプだが、中国との貿易戦争はそう簡単には解決しない>

5月30日に突然トランプ大統領は、メキシコに対して「不法移民対策を強化しないと、全ての輸入品に5%の関税をかける」と宣言、その後も事態が改善しない場合は、25%まで関税をアップすると言い始めました。

この問題は、メキシコが反発しただけでなく、アメリカ国内でも猛反対に遭いました。野党の民主党だけでなく、与党の共和党でも、上院議員が結束して反対を始めたのです。反対の急先鋒はテッド・クルーズ議員でした。

クルーズ議員といえば、2018年の中間選挙の際に落選の危機に見舞われ、かつての宿敵トランプ大統領に頭を下げて応援演説に来てもらい、僅差で当選したのが記憶に新しいところです。そのクルーズ議員ですが、仮にメキシコとの間で「追加関税合戦」が勃発すると「テキサスの農業は壊滅的」になるとして反対したのです。また、「ビッグ・スリー」と言われるデトロイトの自動車産業からも反発の声が上がっていました。

そんな中で、6月8日になるとトランプ大統領は、「メキシコとの間で不法移民対策で合意した」と発表、「メキシコへの追加関税は停止する」としました。その上で、「関税で脅したのは効果があった」と話しています。

週末のこのニュースを受けて、週明け10日の株は上がったかというと、下がりはしなかったものの0.3%アップに留まりました。メキシコ問題の解決が評価されなかったのではありません。そうではなくて、中国との通商問題が懸念されているからです。

6月末には、大阪でG20サミットが行われます。世界が注目しているのは、その大阪で「トランプ=習近平」の首脳会談が行われて、通商問題において合意がなされるという可能性です。

この点に関しては、6月10日に経済ニュース局CNBCの電話インタビューに応じたトランプ大統領は、「大阪に習近平が来るかが問題」だとして、もしも来なかったら「25%関税の対象を、中国からの輸入品のうち、現在関税の対象になっていない60%にも即座に広げる」と脅迫していました。市場が上げ渋ったのはこれを懸念したものと思われます。

そのCNBCでは、次のような解説がされていました。

「90年代の途中までは、共和党は資本家の味方、民主党は労働組合の味方だった。」

「だが、その後の20年間は、共和党も民主党も一緒になって資本家の味方をしていた。」

「現在は違う。共和党も民主党も一緒になってポピュリズムに走っている。」

つまり、メキシコはともかく、中国との通商問題については、トランプ大統領の姿勢を、与党である共和党も、そして野党の民主党やその支持者もかなりの部分が暗黙の支持を与えているのです。



興味深い実例は、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト達です。例えば、リフレ派経済学者で、ノーベル賞受賞で有名なポール・クルーグマンは、依然として「中国との通商戦争はアメリカ経済にマイナス」という立場を変えていません。

ですが、クルーグマンとはまた別の意味で有名であり、ニューヨーク・タイムズ紙の「顔」でもあるトーマス・フリードマン(著書に『フラット化する世界』など)は、別の立ち位置を取り始めています。

フリードマンは、以前と同様に「トランプは、アメリカの大統領には相応しくない」と大統領に批判的な姿勢は残しています。ですが、5月21日に発表したコラムでは、大統領の中国に対する通商戦争には支持を与えているのです。

このフリードマンの変節(?)は、かなり広範に話題となり、多くのリベラル系の識者や政治家に影響を与えています。また、現在2020年の大統領選を目指した民主党内の予備選が始まっていますが、当面のトップランナーであるジョー・バイデン氏には「オバマ政権の副大統領時代に中国と癒着した」などという非難がされています。

そして、多くの候補達が「国内雇用を優先する」という主張の延長で、事実上、中国との通商戦争を支持しているように見えます。

そんなわけで、アメリカ側の事情として、中国との問題は、メキシコのように簡単には解決しそうにありません。当面は、大阪G20が焦点となりそうです。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。ご登録(無料)はこちらから=>>


この記事の関連ニュース