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トランプ娘婿の「パレスチナ和平案」、イスラエルの悪事には触れず

ニューズウィーク日本版 2019年6月26日 17時0分

<イスラエルの肩ばかり持ってパレスチナを踏みつけにしてきたトランプ政権がパレスチナを「救う」とはどういうことか>

ドナルド・トランプ大統領の娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナーは6月25日、バーレーンの首都マナマを訪れ、米政府の「新中東和平案」の一環として、パレスチナ経済の発展に関する展望を語り、投資を募った。

サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなどアラブの大国が居並ぶ「中東和平会議」でクシュナーはこう言った。「パレスチナ経済は過去数十年、幾度となく、動き出しては停止してきた。数限りない善意の支援、投資、計画が、暴力と政治対立によって挫折した。パレスチナ人はあまりにも長く(和平への)過去の非効率的な枠組みにとらわれてきた」と述べた。

そして、パレスチナを支援するため500億ドルの投資ファンドを設立するほか、(パレスチナ人居住区の)ヨルダン川西岸とガザ地区を結ぶ高速道路の建設事業などに50億ドル投資する、とした。「ガザとヨルダン川西岸が商店と活気であふれるところを想像してほしい)と、クシュナーは聴衆に促した。

だが専門科は即座に、ガザやヨルダン川西岸地区が経済発展できなかったのはイスラエルの責任が大きいのに、(ユダヤ人でイスラエル寄りの)クシュナーはそれを都合よく無視していると指摘した。

イスラエルを拠点とするジャーナリストのミリアム・バーガーは、次のようにツイートした。「バーレーンでのスピーチの冒頭、クシュナーはイスラエルがヨルダン川西岸の入植(占領)を続けていることや、イスラエル軍がガザを包囲していることには触れずに、イスラエルがいかにパレスチナ経済を向上させされるかを長々と説明している。だがそれは、パレスチナで生まれ、生きてきたすべての人にとって苦痛でしかない」

パレスチナをシンガポール化?

また英エコノミスト誌の中東特派員グレッグ・カールストロムは会場から次のようにツイートした。「クシュナーの話は終わった。いま壇上では、パレスチナの年間GDPを上回る純資産を持つスティーブン・シュワルツマン(米投資ファンド大手、ブラックストーン・グループの会長兼最高経営責任者)が、パレスチナはシンガポールのようになるべきだと言っている。こんなに笑える見物は初めてだ」

トランプ政権は数日前の6月22日、「繁栄に向けた平和――経済計画:パレスチナの人々のための新展望」と題した新中東和平案の第一部を発表した。目標は、法の整備や市場開放を通じて「パレスチナ人の経済的な潜在能力を解き放つ」ことだ。

だが、長年中東平和を求めてきた人々の多くは、ひどく一方的な話だと憤る。

NGOの「中東平和のための教会連盟(CMEP)」は声明でこう述べた。「新和平案は、パレスチナ経済のもっとも切迫したニーズの多くを正しく特定する一方で、問題の根本原因を誤っている。パレスチナ人居住区の開発が進まないのは、50年にわたるイスラエルの軍事占領と、パレスチナ経済を窒息させることを意図した政策の直接的な産物だ」



「パレスチナの人々に完全な自由と自決権を与える政策こそが、経済を繁栄させるために必要だとCMEPは確信している。このごく基本的な条件が満たされないかぎり、どれほど綿密でよく練られた経済開発案も失敗に終わるだろう」

米国ユダヤ人民主評議会のハリー・ソイファー事務局長は、トランプ政権のアプローチは偽善だと主張する。トランプは今年1月、パレスチナへの援助をすべて停止している。そこへ巨額支援を持ち込むのは、まさに焼け太りだ。イスラエルが占領地をパレスチナに返すかどうかも決まっていない。

そのためか、イスラエルもパレスチナ自治政府もこの会合には出席していない。

「クシュナーの『繁栄に向けた平和』は、トランプ政権の偽善的で空虚な外交政策の一例だ。クシュナーの見栄えのいいカタログは、トランプ政権が資金援助を停止している米国際開発局(USAID)プログラムや、政権が主流から遠ざけた人たちまで取り上げている。そんなウソのカタログで和平を謳うなど、許されるはずがない」と、ソイファーは述べた。

「トランプ政権には、昔からあるアイデアの表紙だけをすげ替え、自分の手柄だと自慢する癖がある。そのくらいなら、トランプ以前のアメリカの基本方針だった2国家共存案を支持して欲しい。2民族のための2国家が、安全かつ平和に共存することこそが、将来の和平合意の基礎になる。空疎な約束と見栄えのいいイメージは役に立たない」とソイファーは続けた。

(翻訳:ガリレオ)


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クリスティナ・マザ

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